理科室にて

理科室


最近、体調が悪い。

どこまで書いただろう?

米倉さんとの誕生日会は書いたはずだ。真っ白で、絹のような繊細さを瞳に宿した女の子。


ーあの時私が米倉さんに興味を持っていたら、彼女の人生はどうなっていただろう。


でも、それでよかったのかもしれない。

どうせ死ぬのだから。


昔、そう教わった。


「橋上、これを見たことあるか?」

先生が大きな段ボールを覗くように私に言う。

「なんですか、これ?」

真っ白で芋虫のようなものが何十匹とうごめいている。一心不乱に大きな葉を食べている。


-コリコリ コリコリ

静かな放課後の理科室に、芋虫の食べる音が聞こえる。


先生が言う。

「『カイコ』っていうんだ。橋上、蛾が好きなんだろう?このカイコはな、大人になると蛾になるんだぞ」

あの自殺する蛾の子供が、こんなにも純白で可愛らしいとは想像もつかなかった。私は驚いて言う。

「あんなに蛾がいるのに、はじめて見ました」

「蛾にもいろいろあってな。カイコはな、自分じゃ生きられないんだ。人が面倒を見てあげる必要があるんだよ。ほら見ろ。可愛いだろう」

先生が一匹を器用に人差し指に乗っける。落っこちないように、必死で這いずっているように見える。



ー僕と同じだ。


私はそれをまじまじと見つめて言う。

「大人になったら、飛んでっちゃうんですか?」


「いや。蛾になっても、自分じゃ飛べないんだ。餌も食べずに、一週間くらいで死ぬ」


「…じゃあ、なんの意味があるんですか?」

「意味?意味なんてない。ただ、生まれて、食べて、死ぬんだ」


カイコが人差し指から落ちる。

床でうごめいている。

「拾わないんですか?」

私はカイコを拾おうと床に手を伸ばす。




-バンッ!!!


先生のスニーカーがカイコを踏みつける。

カイコは、見えない。



「…意味なんてない」


先生は私の腕をつかみ、袖をまくり上げる。

「橋上、腕の傷はどうした?」

「……」


先生が冷たい目をして言う。


「先生に全部見せてみろ」



⇒本編に戻る

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo