
~日本人を世界で一番ワインの味がわかる国民にしたい~
ワインづくりのきっかけも事業の失敗からだった
金丸:そろそろワインの話を聞かせてください。まずは、どうして辻本さんがワイナリーを経営することになったのでしょう?
辻本:そもそもの話をすると、ナパ・ヴァレーの土地はもともとカプコンが購入したもので、私がワインをやろうと思って買った土地ではありません。
金丸:そうだったんですか。
辻本:土地を購入したのは1990年です。その当時、カプコンはすでに日本でトップのゲームメーカーでしたし、アメリカでも成功していました。ただアメリカでは、私たちがユーザーのインドア志向を助長していると風当たりが強くなっていました。そこで、アウトドアスポーツである乗馬のテーマパークをつくろうという話になり、目をつけたのがナパの土地だったんです。
金丸:テーマパークですから、相当広いですよね。
辻本:470万坪、東京都中野区と同じ広さです。端から端まで一番遠いところだと、新宿から品川までの距離があります。
金丸:広すぎて想像できません(笑)。
辻本:もともと有名な乗馬クラブがあり、事業化を任せていたんですが、これがうまくいかなかった。一時期は負債が70億円に膨れ上がって。ちょうどその頃、カプコンは東証一部上場を目指していまして、「減損処理をしようものなら、上場が3年先になる」と言われました。こうなってはしょうがないと、私個人で買い上げることにしたんです。
金丸:完全に誤解していました。私はてっきり、上場で得たキャピタルゲインをつぎ込んで、ワイナリーを買ったのかと。リスクを取って起業して成功し、そのお金でワイナリーのオーナーになった―。そんな、起業家にとって憧れの生活を実現されたのかと思っていました。
辻本:同じように誤解をされている方は多いですよ(笑)。「ええもん買ったね」と言われますから。
金丸:では、ワインづくりを始めたきっかけは?
辻本:ほかのワイナリーから、「土地を貸してくれないか」と言われることが多かったんです。私が買い取った土地は、ワインをつくるにはもってこいの土地で、ぶどう栽培に最適な気温と上質な伏流水がありまして。
金丸:ナパにはカルトワイン(カリフォルニア州、主にナパ・ヴァレーを中心に産出される超高価で高品質なワインの総称)を生んでいる畑がたくさんありますからね。
辻本:そのワイナリーに貸出の条件を聞いたら、「30年間借りて、売上の5%を渡す」と。
金丸:それは、気の長い話ですね。
辻本:そんな30年先なんて死んでしまう。それやったら、わしがやるわ、となりまして。
金丸:そこで「10年で3%はどう?」と条件交渉するのではなく、自らやってやろうと思うところが、挑戦者ですね。