新橋ストーリー:もう35歳? まだ35歳?旧友との再会で明らかになった価値観のズレとは?

「静かめの店がいいかな」

FBのメッセンジャーでのやりとりで、僕は櫻井にそう言った。お互いの職場から新橋が近く、待ち合わせに便利なことは分かっているが、騒がしい店は避けたかった。

「任せとけ。女子とのデートにも使えちゃうくらいの店、予約しとくから」ノリの軽いその文章に、櫻井のライフスタイルを垣間見た気がしたが、僕は「ありがとう」とだけ返信して待った。

その後、少し店が分かりづらい場所にあるから駅で待ち合わせして一緒に店まで行こう、と連絡が来て、今日に至るのだが。

19時45分。流石に待ちくたびれてきた頃、メッセンジャーの着信が鳴った。

「ごめん、今着いた! ヒデ、今どこ? 何色? スーツだよな?」

そのメッセージに返信するまもなく、携帯から顔を上げた僕は、すぐに櫻井に気が付いた。

暗めのスーツを着た人たちばかりの雑踏の中に、ライトグレーのチェックのジャケットに目の覚めるような青いシャツで、キョロキョロしている男。

――ああ、相変わらず。

今日、何度目かにこみ上げてきた懐かしい感情のまま、名前を叫んだ。

「櫻井!」

僕に気が付いた彼が、満面の笑みで近づいてきた。

「遅れてごめん!ヒデ、お前のそのスーツとかメガネとか、なんかビシッとしてて、できる銀行マンって感じだなあ」

「感じ、じゃなくて、実際できる銀行マンなんだよ」

相変わらず言うねえ、と櫻井が笑い、僕たちはがっちりと握手を交わした。

店には少し遅れるって電話入れといたから、と言った櫻井の言葉に安心し、並んで歩きだす。待ち合わせに遅れた言い訳を聞きながら歩いているうちに、どんどん喧騒から離れ、人通りは少なくなっていく。

やがて静まりかえった路地裏の通りに入ると、櫻井が言った。


「着いたよ」

こんな場所に、こんな店が。土壁に木戸。古風な日本家屋風の店構え。看板には『美の』とある。

櫻井が引き戸を開け中に入り、僕も続いた。案内されたのは、靴を脱いで座るこたつ仕立てのカウンター席だった。

「ここなら、ヒデのご希望通り静かに話もできるし。旨くてコスパが最高なんだよ、ここ。俺、時々会社の女の子も連れてくるよ」

親しげに店の人と話をする様子から、櫻井が通いなれている事が分かる。本格和食の高級店かと身構えたが、メニューを見ても良心的な値段のものばかり。

男同士の久しぶりの再会、妙な肩肘も張らず、でも存分に語り合う場所としては丁度いい気がする。

この記事へのコメント

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No Name
SL広場から烏森口見えないけどなー⤵
2018/05/23 08:5511返信1件
No Name
なにこれ。日本酒のPR小説でいいのでは?
2018/05/23 07:0010返信1件
No Name
大手都市銀行、の響きが昭和感漂っててなんか懐かしい。。。今だと大手じゃない都銀って、どこになるの?
2018/05/23 09:055返信2件
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