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  • 「お前は、自分に厳し過ぎる」恋愛対象外だったはずの上司に、30歳女が心揺らいだ瞬間

    私は今、人生を楽しむ努力をしていると言えるのだろうか。何かが胸に突き刺さり…気が付いたら言葉を返していた。

    「あの…水波さんが飲まれているのは、なんていうお酒なんですか?」

    「これは、辛丹波ってやつ。熱燗で飲んるけど、次は冷酒、かな。」

    「・・・じゃあ、飲んでみたいです。」

    私がそう言うと、彼が嬉しそうに笑って店員を呼んだ。見たことのない笑顔に不覚にもドキッとしてしまう。

    店員がおちょこがたくさん入った容器を持ってきてくれた。一つ選んでくださいと言われ、濃いブルーの美しい切子のおちょこを選んだ。

    「意外に大人っぽいグラス、選ぶんだな」

    水波さんはそう言った後、お酒を注いでくれた。

    とく、とく、とく。

    さっきと同じ音がして、それをまるで心臓の鼓動のようだと思いながら、私はおちょこを口元に運び、香りを嗅いだ後、口に含んだ。


    「おいしい!」

    適度に冷えたお酒の爽やかなのど越しと、甘味をほのかに感じる後味に、素直にそう思った。



    「加々美って、結構飲めるんだな。」

    そうですか?ときょとんとした私に、水波さんは笑って続けた。

    「いや、だって、もう3合目だから。」

    ―この辛丹波ってお酒は、いろんな温度で楽しめるんだよ。

    私は最初に勧められて飲んだ冷酒、そして次は、熱燗、そして今は、常温、と、水波さんに導かれるまま、温度を変えた日本酒を楽しんでいた。

    同じお酒が、温度でこんなに変わるということに、感動すら覚えている自分に驚く。

    ―今日まで全く知らなかったのに。

    私のおちょこがカラになったのに気が付いた彼が、また注いでくれた。そっと指が触れあい、またドキッとしてしまう。

    ―こんなに近くで、水波さんの顔を見るのって初めてだな。

    今日知ったのは、日本酒の知識だけではない。怖い人だと思っていた水波さんが、案外柔らかく笑うこと、鼻筋の通ったきれいな横顔をしていること。そして何より…。

    「加々美はさ、もうちょっと自分が失敗することを許せばいいんだよ。一回ホームランを打ててるんだから、絶対に編集者としての才能はある。生涯一度もホームランを打てない編集者だっているんだぞ。」

    ―私のこと、本当に心配してくれていたんだな。

    「お前は、なんだかんだ自分に厳しすぎる。自信とか、自分らしいものとか、じっくり探せばいい。俺はお前ならできると信じてるから怒ってきた。可能性がない、と思うやつには言わないよ。」

    「ご…ごめんな、さい…。泣く、つもり、じゃ…。」

    嗚咽混じりに謝る私の頭を、優しい手がなぜてくれた。大きな手。ポン、ポン、となぜられるたびに、なおさら泣けてきてしまう。

    「あ、ヤバい。今の時代、こういうのもセクハラ、って言われちゃうのかな。」

    おどけて言いながら手を引っ込めた彼に、思わず笑ってしまう。

    そのおかげで少し落ち着くと、私は顔を上げて言った。

    「私、自信を持てるように、頑張ります。焦らず自分らしい企画書を書きます。」

    その言葉に、彼が照れたように、おう、と笑い続けた。




    「で、今夜の辛丹波、加々美はどの温度が一番好きだった?」

    好きだった?、という過去形の表現に、この時間が終わってしまう気配を感じ、寂しくなっている自分に気が付く。

    ―もう少し、水波さんと一緒にいたいんだ、私。

    その気持ちを込めて、私は、苦手だったはずの彼の目をまっすぐに見つめながら言葉を選んだ。

    「私は熱燗が一番好きでした。同じお酒でも、こんなに温度で味わいが変わるなんて知らなくて…感動してます。だからもう少しだけ…。」

    「最後にもう一合だけ。お前の一番好きな熱燗で飲んでから帰ろうか。」

    彼は、私の言葉の終わりを待たずに、グッと顔を寄せながらそう言った。耳元で囁かれた声と、触れ合う肩に、私の体温も上がってしまう。

    私が、うつむきながら頷くと、彼は優しく微笑んでくれた。

    ―Fin.

    さやが水波と飲んだ「辛丹波」はこちら!


    二人が飲んだ「辛丹波」(写真右)は辛口で後味にキレのある味わい。冷やしても燗しても楽しめる。

    「辛丹波 生貯蔵」(写真左)は、冷酒が美味しくいただける夏酒。生貯蔵ならではのフレッシュ感とやわらかな口あたり、キリっとしまった辛口の味わいが楽しめる。

    現在、抽選で辛丹波が当たる“辛丹波30周年ありがとうキャンペーン”を実施中!詳細はコチラから!

    撮影協力:『夢酒みずき』
    衣装協力:男性 ジャケット¥37,000〈AT.P.CO/LCR テリット事業部☎03-6418-0501〉シャツ¥9,800パンツ¥11,000〈ともにエトネ/ユニバーサルランゲージ たまプラーザ テラス店☎045-905-1861〉その他スタイリスト私物/女性 パンツ¥13,000〈ホワイト/ホワイト ザ・スーツカンパニー 新宿店☎03-3354-2258〉イヤリング¥4,500バングルセット¥16,000〈ともにザ キャットウィスカーズ/フィルム☎03-5413-4141〉その他スタイリスト私物

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