
サイコパスな夫:東大卒・外銀勤め・身長185cmのイケメン。完璧な男の正体は“サイコパス”だった?
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「椎名がこんなに熱心に女を口説くところ、初めてみたよ。でもさ、こいつ本当に仕事できるんだ。将来有望!希ちゃん、おすすめだよ」
保坂がそう言って驚くほど、私は彼に気に入られたらしい。
彼は上司や部下にもたいそう好かれているようで、その日は“完璧な男・椎名歩”の魅力を延々と語られる会と化していた。
そして〆のトリュフご飯が運ばれた頃、驚くことに彼は私の手をとり、こう言ったのだ。
「ねぇ、結婚しない?」
椎名歩はきっとからかっているのだろう、さすがにこの時は、誰もがそう思ったはずだ。一気に目が覚めた私は、心の中で自分の頬をひっぱたき、やっとジャブを打つことを決意した。
「もう、からかわないでくださいよ~。……だって、絶対彼女いますよね?」
盛り上がっていた場が一瞬にして静まり返ったが、彼はさっきと変わらないトーンでこう言った。
「うん、いるよ」
―ほら、やっぱり、からかわれていたんだ。こんなに完璧な男に、彼女がいないはずがないじゃない。
彼の言葉に気分を良くしていた自分を恥ずかしく思い、口をつぐんだ私にこう畳み掛ける。
「あ、でも別れるから心配しないで」
私が首を傾げている間に、彼は内ポケットからスマートフォンを2つ取り出し、片方のブラックベリーを机に置いた。
スマホの方に何やら文字を打つと、その送信画面を私に突きつけてきた。
―別れよう。
彼女と思しき美人な女性アイコンに、たったいま送られた無機質な一言。
彼の言動に唖然としてしまったものの、みんなの前で彼女に別れを告げるということは、本気なのでは…という思いがよぎる。
酔っ払って顔を赤らめていた麻也子がニヤリと微笑んだ。
「あら~、歩くんったら、希に本気みたいね」
「うん、本気。この子と結婚する」
そう言って、無邪気に微笑む彼の顔が忘れられない。この言葉が現実になるなんて、誰が想像できただろうか。
「保坂さんと私が仲人ね!」
「歩くんと希にかんぱ~い!」
こうして私の人生は、この日を境に蟻地獄に落ちるがごとくズルズルと狂い始めていった。
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歩の猛烈アプローチに、希は落ちるのか…!?
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この記事へのコメント
似てない所は、東大じゃなくて、外資証券会社勤めじゃなくて、185cmじゃなくてイケメンじゃないことだけだ!