
人事部は見た!:部署内をザワつかせた人事異動。その裏で暗躍する黒幕の、派手な私生活
「おい、あの掲示見たか?お前、前から知ってたのかよ?」
「知るわけないでしょ。私もさっき見たところよ。」
「なーんだ、やっぱそうか。なんであんな人事したのか知りたかったのに。」
誠は子どものように口を少しだけ尖らせるが、仕立ての良いスーツとその顔は良い意味でギャップがでる。
営業成績で3本の指に入る誠。
彼がその成績をキープできている理由は、きっとこの親しみやすい性格も多分に関係しているのだろうと、涼子は考えている。
それぞれの思惑
「ねぇ、営業部では、みんなどんな反応なの?」
誠を相手に早速リサーチを行う涼子。もちろん、素知らぬふりして、さりげなく聞くことを忘れない。
涼子は人事部にいるが、表向きは異動や昇進には携わっていないことにしている。でないとリサーチの対象や、社内の派閥に巻き込まれる恐れがあるからだ。
「いやー、掲示が出てからその話で持ちっきりだよ。平山さんなんてあからさまに怒って出て行っちゃったし。ここだけの話、次は自分が部長昇格じゃないかって思ってたんだと思うんだよ。
上半期、営業部は頑張って昨対比150%超えしたしな。なのになんでよりによって、あのヘマした総務部の後藤さんなんだよ。」
営業部次長の平山さんと、総務部課長の後藤さんは、この会社の創設時メンバーであり、お互い意識しないはずがない。
そして彼の言うように、総務部は上期に大きな失敗をしている。
社内システムの総入替えを行おうとしたのだが、総務部管轄のところに大きな仕様ミスがあり、一旦旧システムに戻し、3ヶ月たった今もまだ新システムに入れ替えられていないのである。
新システムは、この会社の基盤を強くし大きく発展する足がかりになるとして、相当なお金がかかっていると聞いている。
「最近の平山さん、なーんか様子変なんだよなー。ここだけの話、空アポっぽいの入ってること多くなったしさ。転職活動とかしてたらどうしよう。あ、これ内緒だぞ?」
「わかってるわよ。それにそんな不確かな情報、何にもならないわよ。」
「だよなー。涼子、平山さんが辞めるって情報掴んだら、絶対教えてくれよ。俺、平山さんがいないこの会社でやっていける自信ないし、平山さんについていきたいんだ。」
「わかったわ。私の耳に入る頃には、誠の耳に既に入ってそうだけど。」
また飲みの時にでも情報宜しく、と誠は私の肩を叩きながら、周りに人がいないかを確かめてから給湯室を出た。
ーいい情報を手に入れた。さすが持つべきものは同期ね。でも、厄介ね…。
平山さんが辞めたら会社に相当ダメージがある。それに誠も一緒に辞めるなんてことになったら、その影響は甚大だ。
涼子は、どうすべきかと頭を抱えて、つい独り言を漏らしてしまう。
「本当に、今回の人事異動、保身の為に動いてくれたわよね。管理本部長の坂上さん。」
小さくなる誠の後ろ姿を見つめながら、はあっと大きな溜息がでた。
この記事へのコメント
恋愛、ドロドロ、港区(無論、港区おじさん除く)ばかりでちょっと胃もたれ気味だったので、これから読むのが楽しみです!
骨太な作品を期待します。