
人事部は見た!:部署内をザワつかせた人事異動。その裏で暗躍する黒幕の、派手な私生活
人事部ー。
社内の人間模様や、人間の黒い欲望に直接触れることもある部署。
時に残酷で、時に計算高く。
すべては会社のために機能する部署だが、そこに一切の私情が入らないなどということは、おそらくない。
人事部から見た社内、それは人の業が蠢く社会の縮図であった。
12月26日午前11時
社内がざわつき始めた。
理由はただ一つ。先程、来年1月からの社内異動の掲示がなされたからである。
そして、ざわつきの的はおそらく、総務課長後藤の部長昇進だと推測される。涼子は周囲の動揺を感じて、軽くため息をついた。
-そりゃそうだ。
この人事には涼子も大反対だったし、社内の様子がこうなることくらい予想できた。ただ、一人の人間の強い想いが、今のこの状況を作り上げている。
そのことを知るのは社内の一部。役員レベルの人間と社内人事だけだと思われる。
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涼子は、ITベンチャー企業で人事部に所属している29歳。
創立してわずか10年の会社だが、ここ5年で急成長しており社員数は300名を超えた。
オフィスは、恵比寿ガーデンプレイスタワー内にあるため、今の時期は毎年恒例のレッドカーペットやキラキラ光るイルミネーションを眺めるのが、涼子の楽しみとなっている。
涼子が所属する人事部には、新卒採用や中途採用を担当する者、給与計算や社会保険の手続を行う者など様々な担当がいる。
涼子はそんな人事部でリーダーとしてメンバーをまとめながら、自身は社内人事を担当している。
社内人事とはいわゆる、昇進や降格、社内異動といった社内の黒い部分がよく見える役割である。
もともと、上智大学を出てメーカーで一般職として働いていたのだが、古い会社ならではの男尊女卑、年功序列の社風に嫌気がさし、実力結果主義の ベンチャー企業に興味を持ち、現在の会社に転職した。
転職してまず驚いたのが、社内のカジュアルながらも洗練された雰囲気だった。
明るくてゆとりあるオフィス、カラフルなミーティングスペース、そこで働く”恵比寿感”あふれる社員たちと過ごす毎日は刺激に満ちている。
今ではすっかり会社に馴染んだ涼子の、トレードマークとなっているのが真紅の口紅。
毎朝丁寧に塗るそれは、自分を強く魅せてくれる。そんな気がして愛用するうち、いつしか「涼子らしさ」となっていた。
-そろそろ、社内リサーチに行こうかしら。
涼子が席を立ち給湯室にお茶を入れに行くと、同期で営業部にいる誠がヒソヒソと声をかけてきた。
この記事へのコメント
恋愛、ドロドロ、港区(無論、港区おじさん除く)ばかりでちょっと胃もたれ気味だったので、これから読むのが楽しみです!
骨太な作品を期待します。