今日の食事会に誘ってきたのは、同期の上野瑛士だった。
―鉄平、来週木曜の夜、空いてない?―
1週間前、そんなLINEが届いた。
瑛士はどちらかと言うとガリ勉タイプの地味な男で、正直冴えない容姿だ。
鉄平の勝手な想像だが、学生の頃は鉄平のように男女問わずみんなとワイワイしている目立つ男たちを、教室の隅でじっとりとした目で見ているか、もしくは寝たふりをして机にうつぶせになっていたような男だろう。
いわゆる、スクールカースト下位層の男だ。
最近では、さすがに商社マンらしく入社当初の地味さは薄れてきたが、それでもやはり脱しきれない地味さがある。
社会人になると不思議なもので、学生時代だったら絶対に友達になっていないだろうなと思う相手とも、それなりに仲良くなれるものだ。
鉄平にとって瑛士がまさにそれで、200人近くいた同期のうち、今でもたまに飲みに行くメンバーの一人だ。
だが最近は互いに忙しく、飲みに行く機会が減っていた。そんな瑛士からの、久しぶりの連絡だ。
「空いてるよ」と返すとすぐ既読になり、返事がきた。
―食事会があるから来ないか?相手は全員CAだよー
「マジか」
鉄平はスマホを見て、思わず声を出した。瑛士からCAとの食事会に誘われるなんて、初めてのことだ。
入社後の数年間、鉄平は仕事と同じくらいの熱量で食事会に励んでいた。「商社マン」という肩書は、思っていた以上に効力を発揮したものだから、簡単に言えば浮かれていた。
加えて、人並み以上の容姿を持つ鉄平にとっては、まさに無双状態だったのだ。普通のことを言ってるだけでも「鉄平くんって、面白い♡」と好意的に受け取ってもらえるのだ。
食事会に行くために仕事を巻いて、銀座や西麻布に六本木、時には渋谷まで行ったものだ。
女の子たちを連れて二次会のカラオケに行き、終電なんて気にせず遊ぶ。狙った女の子は必ず落としたし、狙いたい女の子がいなくても、とにかくその場を楽しんだ。
そんなことを、ずっとずっと繰り返していた。
食事会に誘う男友達は、何人いても足りなかった。だから当時は、率先して食事会に行くタイプではない瑛士も誘ったりしていたのだが、まさか瑛士から誘われる日が来るなんて、当時は想像もしていなかった。
◆
美和子たちとの食事会は、最後に全員でのLINE交換を終えて、2次会のカラオケまで楽しく過ごしてお開きとなった。
目黒に住む鉄平と、代々木上原に住む美和子は方向が違ったため、タクシーで送っていくことはできなかったが、鉄平は自宅に着くとすぐに個別でLINEを送った。
メッセージはすぐ既読になったものの、鉄平が起きている間に返事がくることはなかった。
―さすがに、疲れて寝ちゃったかな。
そう思っていたが、一夜明けた翌日の昼になっても返事は来ない。
こんなこと、今までは一度もなかったことだ。