出世競争にもがき苦しむ32歳のメガバンカー。そんな男を救った 、現代妻の“内助の功”
雅人、32歳。大手町にあるメガバンク勤務。
働き盛りの雅人は、年末に向けて膨大な量の仕事を抱えていた。その上、社内政治の動きで、気がかりな事件が起こる。
そんなお疲れ気味の雅人を救った、妻の“内助の功”とは・・・?
「最近忙しそうだけど、大丈夫?」
雅人が清澄白河のマンションを出るとき、妻の彩が心配そうに聞いてきた。
「うん。今日もちょっと遅くなるかもしれないけど」
心配する妻に気丈に答え、雅人は家を出た。
雅人自身も、疲れが溜まっていることは自覚していた。年末に向けて繁忙期が始まり、最近残業が続いているのだ。
「無理しないでね」
彩とは27歳の時から付き合って、結婚6年目だ。出会ったときから明るい笑顔を絶やさない妻に、雅人は何度となく救われてきた。彩も仕事を持つ身だが、雅人をいつも全力でサポートしてくれる。
しかし今回、彩の笑顔だけでは乗り切れなそうにない。繁忙期の忙しさに加え、ある気がかりな事件が起きたのである。
◆
「雅人さん、聞きました?総一郎さんが、あの戦略案件手がけるらしいですよ」
昼休み、雅人は丸の内の『サングリア』で後輩とタイカレーを食べていた。普段は忙しくてろくに昼食も取れないが、今日は社内の情報交換がてら外に食べに出ていたのである。
「え・・・!?総一郎が?」
後輩の思いがけない言葉に声が上擦り、危うく持っていたスプーンを落とすところだった。辛いカレーでかいた汗が、一瞬のうちに引くのを感じた。
雅人は田町の支店から今春、丸の内の本店に異動したばかりだ。
30歳で主任に昇進、そして本店に異動。順調に出世街道を歩んでいる、と思っていた。
あの男、総一郎が現れるまでは。