サラリーマン会計士・隆一の迷い Vol.2

「お前のこと、追い越しちゃったな」ベンチャー役員へ華麗なる転身を遂げた男からの、思いがけぬ挑発

難関資格の筆頭格である、公認会計士。

―高収入、堅実、転勤なし。

そんな好条件を難なくクリアする“勝ち組”であり、東京の婚活市場においても人気が高い職業の一つである。

しかし彼らにも、悩みはある。

士業として将来目指すゴールは独立開業?監査法人のパートナー?様々な選択肢がある中で、日々自身のキャリアに悩まされている。

慶應義塾大学商学部卒業後、大手町にある大手監査法人に入社した隆一、27歳。サラリーマン会計士の隆一は、上司の冴木や彼女のユキに恵まれ何不自由ない生活を送っていた。

しかし、同期入社の健の突然の転職に動揺し、キャリア選択に悩み始めた。


同期の送別会でくらった、予想外の言葉


「皆さん、短い間でしたが大変お世話になりました」

健の声が高らかに会場へ響き渡った。今日は退職した健の、送別会だった。

場所は、会社でよく使う丸の内ブリックスクエアにある『A16 TOKYO』

終始、和やかな雰囲気であったが、健はいつものようにお調子者らしく、その場を盛り上げる。上司の冴木さんも、笑顔で健に声をかけた。

「健、転職先の会社に迷惑かけるなよ」

皆それぞれ、健に対して労いの言葉を向けている。僕は、健と入社してから切磋琢磨してきた日々を思い返していた。



「健、明日の経営者ヒアリング任せたから、お前が仕切ってみろ」
「え…。僕ですか…!?」

冴木さんお得意の”無茶ぶり”だ。僕の働く監査法人では、新人であろうと一人前として扱われる。

経営者ヒアリングは、経営陣が粉飾決算などの重大な不正をする兆候がないかどうかをたしかめる、重要な”ミッション”だ。

その会社の業績はもちろん、経営者の経歴や人物像を頭に入れたり、過去の監査調書を読みこんでおく必要がある。新人にとっては、かなり骨の折れる仕事だ。

悪戦苦闘している健を見て、僕はその仕事を手伝った。それが、健と親友となったきっかけだ。

「健、手伝うよ。まずは、業界の動向からヒアリングしよう」
「助かるよ。今度ランチご馳走するから」

こうして、冴木さんの“無茶ぶり”の度、夜遅くまで一緒に頑張った。

また仕事以外にも、体育会系で知られるうちの会社はクライアントとの飲み会も多いので、若い僕らは場を盛り上げるために、一緒になってたくさん飲んだ。

こうして一緒の時間を過ごす内に、健との仲はどんどん深まっていったのだ。



送別会も終盤となり、僕も健に声をかけた。

何も言わず突然転職したことに対するモヤモヤと、「頑張ってほしい」という気持ちが半々だ。

「健、転職おめでとう。次のステージでも頑張れよ」
「いつの間にか、隆一を追い越しちゃったな。 隆一も頑張れよ!」

―追い越す?

何を、追い越したのか?

相変わらず調子がいい健の言葉に、不快な気持ちを隠せなかった。

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