不朽の名作スペシャリテ Vol.2

French
Immortal work Speciality

生涯で傑作と呼べる料理を残せるシェフは少ない。
数多くのスペシャリテを残したふたりの名料理人。
王道フレンチの深淵を、舌と記憶に刻み込みたい。

身悶えする貫禄のひと皿。味わい、ディープインパクト

シェ イノ

Chez Inno

Special dish
仔羊のパイ包み焼き“マリアカラス”

¥7,770。フォアグラとトリュフをくるんだ仔羊の背肉をパイ生地で包み、オーブンで15分ほど焼き上げる。ロゼの仕上がりには時間と温度、何より勘が頼りとなる。そこに添えられた、コニャックとポルト酒などをゆっくり煮詰めたソース・ペリグー。「ソースのトロワグロ」と称されるジャン・トロワグロ氏の下で修業した井上旭シェフの魂であり、真骨頂ともいえるこのソースもまた主役。オペラ歌手・マリアカラスへのオマージュとして命名された、稀代のスペシャリテだ

偉業を成し遂げた名シェフの軌跡を味覚で辿る最高傑作

いったいどれだけの人に、この料理の記憶が刻み込まれているだろう。作り手は、井上旭氏。伝統の上に立ち、創造性に富む料理を追求する偉大なるシェフである。15歳でフレンチの世界に飛び込み21歳で渡仏。帰国し『銀座レカン』の料理長だった1974年頃。「日本人に美味しい仔羊を食べさせたい」と、苦心の末に生み出した料理がこのひと皿だ。当時、羊といえばマトンの時代。フォアグラは冷凍、トリュフは幻の存在だ。

そして現在。食材の質は格段に向上、調理器具も進歩した。軽さが求められる昨今、ソースは重さを抑えるためバターは少量に留め、コニャックやポルト酒を煮詰めてキレを出す。官能的なロゼ色の仔羊にソースをまとわせ噛み締めれば、思考が一瞬停止するほどの衝撃──。そして、このスペシャリテも進化する。だが昔の味を懐かしむ客もいる。「思い出という調味料には勝てません」と笑う、支配人の高橋淳一氏。美術館に所蔵できる料理があるとすれば、断然このひと皿を推す。

鳶色のソースも艶やかな滋味溢れる牛尾の逸品

コートドール

Cote d' or

Special dish
和牛の尻尾の煮込み赤ワインソース
__

¥5,880。言わずと知れたフレンチの名店『コート ドール』のオープン以来、25年間グランドメニューを飾る至極の逸品。これを食べるために訪れるグルマンたちが多いのもうなずける、深奥にして滋味ゆたかな味わいだ。オックステールという庶民的な食材を一流の味に仕上げる。『ヴィヴアロワ』で初めてこの料理に出合った時の感動を今も胸に秘めながら、変わらず作り続ける斎須政雄シェフ。その料理哲学がこのひと皿には潜んでいるようだ。

料理人の生きざまを物語る、品格溢れる渾身のひと皿

威風堂々として皿に横たわる肉塊─。鳶色のソースに覆われ、黒々とした光沢を放つそれは、立ち昇る香気も豊潤にして軽やか。どこか毅然とした佇まいに、有無を言わせぬ迫力と品格を感じさせる。これが『コート ドール』のスペシャリテ「和牛の尻尾の煮込み赤ワインソース」。斉須政雄シェフが28歳の時から作り続けてきた渾身の力を込めたひと皿だ。

何も特別なことをするわけではない。当たり前のこと、なすべきことをひとつたりとも疎かにせず、日々淡々と作り続ける。大切なのは自分に素直であること。そんな斉須シェフの料理哲学が皿から伝わってくるようだ。そしてそれは、時流に流されることなく、自らの信念を貫いてきた斉須シェフの生きざまそのものに思える。だからこそ、皿のあり方も時と共に少しずつ変わってきた。力まかせにソースで食べさせるのではなく、牛尾本来の肉の滋味を前面に引き出すその料理は、限りなくピュアな味へと近づいている。


東カレアプリダウンロードはこちら >

【不朽の名作スペシャリテ】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ