寿退社したものの Vol.1

寿退社したものの:憧れの専業主婦ライフ。華やかな生活を捨ててまで得た「安定」の現実

若い女の選択は、浅はかさと紙一重


ー3年前ー

「志穂の独身最後の夜に、カンパーイ!!」

声を張り上げないとお互いの声が聞こないほどの爆音に負けぬよう、着飾った若い女達が声を張り上げていた。

リムジンを貸し切ったバチェロレッテ・パーティーの主役である志穂は、はしゃぎながらも、こぼさないよう丁寧に皆のグラスにシャンパンを注いでゆく。

その夜は、デコルテを強調したシャンパンゴールドのベアドレス、足元にはD&Gのブラックビジューパンプスをチョイスした。158cmという身長の割に脚がすらりと長い志穂は、もっぱらミニ丈と10cmヒールでコーディネートを組むことが多い。

「明日から、志穂はもう人妻なのね〜!」

「なんか人妻って志穂のイメージと全然ちがう!」

遊び友達や、学生時代の女友達。

美人で勢いのある、若い女ばかりが7名集まった。みなツヤツヤとした肌を光らせながら、思い思いのドレスを身に纏いさざめきあう。


仲間の中で誰よりも早く結婚を決めた志穂に、嫉妬心を持つようなものは誰一人としていなかった。

当たり前だ。

最年長のリサでさえ、当時は27歳。みんな、吟味に吟味を重ねていい男と結婚しようと女っぷりを磨くのと、リムジンから見える東京の夜を味わい尽くすので忙しく、立ち止まることなんて選択肢になかったようだ。

志穂のように一番最初にプロポーズしてきた男とあっさり結婚する方が珍しい。

このリムジンパーティに参加しているのは、スタートアップの創業メンバー、大手商社、テレビ局、外資系金融、エンジニア、人材派遣会社など、業界こそバラバラだったが皆それぞれに「稼げる女」なのが共通点。

流行りの服を買うのも、気後れしそうなハイクラスのレストランに行くのだって、ヒールで歩けなくなった時に乗るタクシー代だって男に頼らずとも自分でなんとか出来る女達なのだ。

だから、志穂が「結婚を機に仕事を辞める」と言い出したとき、皮肉交じりに大丈夫なの?と聞かれたことも1度や2度ではない。

志穂の勤めていた大手化粧品メーカーは、仕事と育児や介護の両立支援も盛んだったが、職場の人間関係に少し疲れていたところへ康介からプロポーズされた。

職場の愚痴をこぼす志穂に、「そんなに大変なら辞めちゃえよ。俺が養ってやるから。」と力強く言われ、舞い上がりそのままの勢いで退職届を出してしまったのだ。

この記事へのコメント

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2児の母
「普通」とか「みんな」とか、誰のことなんでしょうか?
勿論そういう人もいますが、そうじゃない人もたくさんいると思います。
ただ、日本ではそうじゃない人はなかなか表に見えにくいと思いますが。

人それぞれの価値観があって、私はいいと思います。
2017/09/16 17:176
No Name
毎日、何しようか。なんて、本当にすることないの?
子育て終わった人間でもそんなことは考えない。
主婦は、見えない労働ばかりですよ。
やはり甘えてるよ。
この志保は
2017/10/05 14:035
No Name
あなたの周りはみんな裕福妻なんですね。
私の会社には、シングルで、休む暇なく働いている人いますよ。
食べるために労働基準の時間超えて働いている人いますから。
羨ましいです。
2017/10/05 22:315

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