「きのうの食事会、どうだった?代理店とIT社長だったんでしょう?」
翌日出社すると、隣のデスクにいる美加子から「おはよう」と言う前に聞かれた。
美加子とは、以前は必ず一緒に食事会に行っていたが、彼女に彼氏ができて以来、当たり前ではあるが一切行かなくなり、真樹は寂しい思いを抱えていた。
それでも、お食事会事情には興味があるらしく、毎回結果を聞くのを楽しみにしているのだ。
「それがさぁ、条件はみんな悪くないんだけど、一人だけすっごく嫌な男がいたの」
真樹が顔をわずかにしかめながら竜太から「唇テカテカ」と茶化された話をすると、美加子は「何その男」と笑ったあとに、真顔に戻ってこう言った。
「でもたしかに、あんまりテカテカしてる唇って、男の人には不評だよね。こっちはよかれと思ってやってるのにね」
「え、そうなの?」
「うーん、私の彼だけかもしれないけど……♡」
美加子の顔が急に綻び、何かを思い出したのか心なしか頬がピンクに染まって見えた。
「じゃあちなみに、美加子の彼はどんな唇が好きなのよ」
「彼はね……」
そう言って美加子は、デスクに置いていたバッグから化粧ポーチを取り出し、口紅を手に取った。
「彼ね、このゲランの口紅をつけてる時の唇が一番好きっていうの。なんか、柔らかそうで、これをつけてると“キスしたくなる唇になる”って言うのよ」
美加子の頬はピンクを通り越して赤くなった。彼女からは、まるで幸せがこぼれ落ちてくるようだ。
「えー、美加子の彼って、そんなこと言うの?」
驚きながらも、そんなことを素直に言ってくれる恋人の存在は、正直羨ましかった。
「じゃあその口紅は、テカテカしない?」
羨ましさもあってか、少し意地悪な聞き方になってしまったかもしれない。
言った後でそう思ったが、幸せオーラ全開の美加子が、気にする様子はまったくなかった。
「大丈夫よ、マットな仕上りだから落ち着いた色気もでるし。しかもこれ“キスキス”っていう名前なのよ。まるで、キスするための口紅みたいじゃない?」
「ふ~ん。そうなんだ」
気のない返事をしながら、真樹は自然と康史の顔を思い浮かべていた。
―この口紅を塗ったら、康史さんはどんな反応をするかな……。
化粧品を選ぶ時も、洋服を試着する時も、自分が好きかどうかはもちろんだが、好きな人が見たらなんと言ってくれるかも、無意識で考えてしまう。
真樹は今まで、マットな口紅はあまり使ったことがない。この口紅を使って雰囲気が変わった自分を見たら、康史はどんな反応を見せてくれるのか。
そんなことを考え始めたら、もう二度と会うこともない竜太に言われた一言なんて、どうでもよくなっていた。
◆
それから数日後の夜、真樹は定時で仕事を終えて、ギンザ シックスへと急いだ、目的はここの地下1階に入っている「ラ ブティック ゲラン GINZA SIX店」へ行くことだ。
美加子に教えてもらった「キスキス マット」を買いに来たのだ。
何色か試しに塗ってもらって、上品なスモーキーローズが気に入り「フレイミング ローズ」という色に決めた。
「キスキス マット」を塗った自分の顔を鏡でみると、今までにはなかった”品”が加わったように思えた。
そして、早く康史に会いたいと思った。
店を出て軽い足取りで銀座4丁目の交差点に向かっていると、不意に名前を呼ばれた。
「真樹ちゃん!」
男の声だった。
振り返るとそこには、二度と会わないと思っていた男・竜太が立っていた。
▶NEXT 8月17日 木曜更新予定
思いがけない竜太との再会。意図せずして、竜太と一気に距離を縮めてしまう……?!
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