「可愛い」キャラを確立した、意外にモテるプーさん
色白のモチ肌に、ぽっちゃり体型。
黒目がちな奥二重のつぶらな瞳に、小ぶりのアヒル口。
―こいつ、巷では“丸の内のプーさん”って呼ばれてるから―
いつかの食事会で春彦に突然そんな風に揶揄され、女子たちに爆笑されたときは怒りと羞恥で身体が張り裂けるかと思った。
しかし、このキャッチコピーは思いがけず「可愛い♡」とウケが良く、それ以来、江森はプーさんという名の愛されキャラを確立している。
自分を春彦のようなイケメンだなんてもちろん思わないが、決して不器量なわけでもない。
外見にはそれなりに気を遣っているから清潔感は保っているし、クセのない無難な顔立ちは、意外に女子に人気が高いのだ。
それに、「イケメンってちょっと苦手......」との声も、かなり多い。
よって、春彦を呼び水としてサイドのポジションを固めることで、得られるメリットは十分にあった。
すっかりブランド化された「港区」の生まれ育ちであることも、年を追うごとに自分の武器になっている感覚がある。
証券マンという肩書きだって悪くない。元来のマメな性格が手伝って、営業の成績は同期の中でもトップだった。
「お前って、本当に女のことばっかり考えてるよな。チャラい奴は、そのうち刺されるぞ」
「ハル、分かってないな。ボクはチャラいんじゃなくて、誰にでも平等に優しいんだ。博愛主義なんだ」
先ほどの生肉撮影女・亜美を含め、週末デートを予定している3人の女たち(ディナー×2、ランチ×1)にLINEを打つ江森を、春彦はやはり呆れたように眺めている。
ラーメンだけでは腹が満たされなかったのか、春彦は餃子やら酢モツやら、追加のツマミを次々とオーダーした。
もう30歳になったというのに、この男の体型はシャツ姿の上からでも分かるほど、全く贅肉がなくスラリとしている。きっと、細胞レベルで作りが違うのだろう。
「ところでハル、お前は最近どうなんだ?」
「それがさ、俺、ヒカリと結婚するかも」
江森は、思わずイスをひっくり返しそうになるほど、勢いよく飛び上がった。
「お、お、おまえ...、ヒカリって、あのヒカリ?!いつの間にあんな女を......!」
ヒカリというのは、某人気ファッション誌の表紙をしょっちゅう飾る人気モデルだ。
しかし、ただの美貌のモデルならまだしも、ヒカリは有名デザイナーを親に持つ超のつくお嬢様だ。学生時代から顔見知りではあるものの、高嶺の花どころでなく、異次元レベルの女だった。
「まぁ、たまたまそんな感じになって、たまたま向こうの親にバッタリ会っちゃってさ...。それに、俺ももう30歳だし、子どもとか欲しいからさ」
「う、ウソだろ...。お前が、子ども...?」
あまりの驚きで声を裏返してしまいながら、自称博愛主義の気の多い男・江森は、親友に焚きつけられ、初めて「結婚」というものを意識した。
▶NEXT:7月8日 土曜更新予定
毎週のように開催される結婚式に、さらに結婚願望を触発されるえもりんだが...?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事へのコメント
後味悪い話や登場人物は全くなく、毎回クスッと笑えて、ただ、ひたすらプーさんを応援してました。