それも1つのLOVE Vol.12

それも1つのLOVE:もう二度と触れられない高嶺の花。彼女が最後に告げた、残酷な言葉

チャンスはいくらでもあったのに...


「それで、話したいことって?」

カップを両手で抱えながら、美玲が上目づかいで翔平を見上げる。

彼女にとっては何気ない仕草だとわかっていても、震える睫毛や、美しく彩られた指先に、いちいち目を奪われてしまう。

「あ、いや...なんだったかな」

自分から呼び出しておいて「なんだったかな」では済まないのだが、すっかり酔いも興奮も冷めてしまい、彼女に婚約者の不義理を告げ口する気は失せていた。

化粧も薄く、力の抜けた美玲はいつも以上に小さく華奢に見えて、そんな彼女を傷つけるようなことをしたくもなかった。

「...なぁに?もう、翔平って時々変よね...昔から」

そう言って、彼女は呆れたように笑う。

飾らない彼女の笑顔を、翔平は久しぶりに見た気がした。暗闇に浮かぶ白い肌と睫毛の影が妖艶で、言うつもりのなかった言葉が勝手に溢れてしまう。

「美玲に、逢いたかったんだ」

日吉キャンパスで出会ってからもう10年も経つというのに、こんな風に翔平が気持ちを素直に伝えるのは、初めてだった。

きっとこれまでにも、チャンスはいくらでもあった。

ゼミの帰り道や、皆で飲んだ後、誕生日にディナーをした日、そして一夜を共に過ごした夜...過去にいくらだって、言うべき瞬間はあったのだ。

「美玲が、好きなんだ」

それなのにどうして、どう考えても最も言うべきでない時に、口走ってしまうのだろう。

翔平の言葉を、美玲は黙って聞いていた。

昔からずっと変わらない、何を考えているのか想像もできない、美しい横顔で。

しばらくの間、沈黙が二人を包む。

「...もう、遅いわ」

ふたりの間を行き交う、言葉にならない声を遮断するように。美玲は絞り出すようにそう呟くと、翔平を一瞥した。

そして不意に立ち上がると、逃げるようにして立ち去ってしまった。

翔平は、とっさに彼女の手を掴もうと試みた。

しかし美玲が、悲しく、そして強い拒絶を込めた目を向けて...最後に言った言葉が、翔平を凍りつかせたのだった。



ー数日後ー


「まあ、タイミングが合わなかったんだな」

赤坂アークヒルズで期間限定オープン中の『YONA YONA BEER GARDEN in ARK Hills』へ、仕事終わりに同期のあきらと軽く飲みにきた。

美玲とのことを、改めてあきらに話すのも考えてみれば初めてだった。

......


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