マッチングアプリは、必然に。 Vol.2

「マッチングアプリなんて、私に必要ない」とこだわる女を変えた、ある出来事



桃香は今日、聡子に誘われた食事会に行く予定だ。相手は、大手監査法人に勤める会計士だという。

亜美に「マッチングアプリに登録してみれば?」と言われたことは何となく引っかかっていたが、そういう出会いにはやはり、抵抗がある。

水曜日、17時45分。定時きっかりに仕事を終えた桃香は、会社の化粧室で入念な化粧直しをスタートさせていた。ランコムのマスカラをたっぷりと塗り直し、会社に常備しているヘアアイロンで、髪を丁寧に巻き直す。

仕上げにディオールのグロスを塗り直し、全体のバランスを確認した。今日は最近一番お気に入りの、襟にビジューがあしらわれたChestyのピンクのブラウスを着ている。

鏡の前にいる女は、自分でも惚れ惚れするほど美しい。30歳にはとても見えないし、もしかしたら20代前半と言っても通じるかもしれない。


―ふふ。今日の食事会も、きっと楽勝だわ。


鏡の前で思わず微笑んでいると、3つ上の先輩、奈緒が現れた。奈緒は広報部にいる、憧れの存在だ。

「あれ、桃香ちゃん。ずいぶん楽しそうね」

奈緒に心の内を見透かされた気がして、桃香は慌ててエルメスのピンク色のボリードポーチにグロスをしまいこんだ。


「乾杯!」

丸の内の『丸の内 焼鳥 瀬尾』で、食事会はスタートした。現れた男性二人は、会計士らしくいかにも真面目そうな雰囲気で、ダークグレーのスーツがやや野暮ったい。桃香はその二人をちらりと見て、心の中ではこう呟いた。

―真面目そうな二人だけど、残念ながらタイプではないわ…。

そう思った途端、桃香は急に強気になる。

彼らはきっと、桃香のようなタイプの女性と接した機会がないだろうから、優しく会話をリードしてやらねばならない。

「桃香さん、休日は何をされているんですか?」

明夫という目の前の男は、黒ぶちの眼鏡に何度も手を当てながら、桃香に懸命に話しかけてくる。

その真面目そうな明夫の様子から、休日の彼の服装を思わず想像する。アイロンが丁寧に当てられた白シャツを、きっちりベルトに入れるタイプだろう。

「最近はテーブルコーディネートに凝っていて、レッスンに行くことが多いですね。昔は料理教室にも通っていたんですけれど、一通り教わってしまったので…。“食空間コーディネーター資格”取得に向けて、勉強中なんです」

明夫はその話に、一生懸命相槌を打っている。丁寧にアイロンがあてられたアーノルドパーマーの水色のハンカチを出して、何度か額の汗を拭っていた。

桃香は女性慣れしていない明夫のために積極的に話題を提供し、思う存分喋り尽くした。

明夫のような男性は全くタイプではないが、リラックスして話すことができる。

この記事へのコメント

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No Name
いくら真面目でも、休日にアイロンのかかった白いワイシャツの裾をきちっとズボンにいれるかね?笑
2019/01/15 07:232

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