子を産み、子を育て、家を守る。
昔からあるべき女性の姿とされてきた、“良妻賢母”。
しかしその価値観は、現代においてはもう古い。
結婚して子どもを産んでも、男性と同等に働く女性が増えた今こそ、良妻賢母の定義を見直す時だ。
家庭も、仕事も、子育ても、完璧を目指すことで苦しむ東京マザーたちが模索する、“現代の良妻賢母”とは、果たしてどんな姿だろうか。
「あー、緊張する」
佳乃が、朝8時半の市ヶ谷に来るのは約1年ぶりだ。
毎日ここに通っていた当時の佳乃は大きく膨らんだお腹を抱えていたが、今ではすっきり身軽な身体に戻った。
5cm以上のヒールも履けるし、マスクだって着けなくていい。
今日は、育休明け最初の出社だ。復職に向けて、エストネーションで数枚買いこんだ洋服の中から、シンプルなベージュ色のワンピースを選んだ。
鏡の前で、何度も夫の紀之に「大丈夫かな」と確認したが、やはりイマイチ自信が持てない。
仕事への復職は、楽しみだった。まだ柔らかい髪の毛の間から、ミルクのような、ヨーグルトのような、赤ちゃん独特の匂いを放つあかりと一緒に過ごす時間は、もちろん何よりも愛おしい。
だが、社会の一員として育休前と同じように責任ある仕事を続けたいという思いも強い。
ただひとつ、佳乃が頭を抱えていることがある。
時短勤務とゆり子の存在だ。
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