―イケてる旦那、通称イケダン。
仕事ができて家庭への配慮も忘れず、男としての魅力にも満ち溢れている。
メディアには多くの“イケダン”たちが登場し、礼讃される。
しかし彼らは本当に、全て完璧にこなすスーパーマンなのだろうか?
外資系メーカーに勤務するユウ(29)のFacebookには最近、イケダンたちの投稿が次々に表示されるが、「いいね!」は押さないことに決めている。
その理由とは?
「昨日は子供と1日中公園で遊んだから、焼けちゃったかなぁ?」
月曜朝10時からの、定例ミーティング。
ユウの上司である橋本は、ミーティング前に必ず週末に過ごした家族とのエピソードを語り出す。
ユウは、隣に座っている1つ下の後輩の亜美と「また始まったね」と顔を見合わせた。
月曜の午前は、週末に溜まったメールの返信やリサーチなど仕事は山のようにあるのだ。
「早く終わらないかなぁ」と思いながら、会議室をぐるりと見渡した。
ユウの所属する外資系メーカーのマーケティングチームには10人ほどのメンバーがいて、橋本はこのチームのマネージャーだ。10人のうち8人が女性で、しかもユウと亜美以外は結婚している。橋本の家族エピソードには、皆総じて歓迎ムードだ。
「…帰りはどうしても電車を見に行きたいって言うから、二子玉川駅まで行ったんだけど、見たかったのは山手線だって騒ぎだして」
橋本はやれやれといった様子で言うが、表情は得意げだ。
ユウと亜美以外の女性陣は、「さすが橋本さん!」と感心しながら聞いている。橋本は家庭を大切にする男として社内でも有名で、“イケダン”として雑誌に取り上げられたこともあるという。
しかしそんな彼に対し、ユウにはいくつもの解せぬ思いがあった。
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