妹の結婚、オフィスの移転。結衣の家探しは、一体どうなる?
大学は地元の逗子から東海道線で通っていたし、社会人になってからはマリがすぐに転がり込んできたので、結衣には一人暮らしの経験がない。
―三軒茶屋は住みやすいし、このまま近くで一人用のマンションを探そうかな…。
そう思っていた矢先、新たなニュースが飛び込んできた。新卒から丸4年、PRとして働いている会社のオフィスの移転だ。事業拡大のため、今ある表参道から品川へ移るらしい。噂には聞いていたが、決定事項として社内の回覧文書で知らされたとき、結衣はがっかりした。
表参道のオフィスは少し古いが、周辺の街並みが大好きだった。朝の品川は混雑してそうで、通勤を考えると今から少し思いやられる。
―重なるときは、重なるなぁ…。
今日は三軒茶屋の不動産屋さんのところに行こうと思っていたが、ひとまず家に帰り、自分で探し直すことにした。
家に着き、パソコンの検索サイトで品川から20分以内の賃貸物件を早速調べ始めた。品川だと選択肢は広い。JRに京急線、モノレールだって通っている。
「お姉ちゃん、どこら辺に住むの?」
風呂上がりのマリが聞いてきた。マリは女子大を出た後、大手生命保険会社で役員秘書をしている。普段は定時帰りで遊びまわっているが、最近は大人しく家にいるようだ。
「仕事忙しいし、品川付近がいいかなって。」
「本当、仕事人間だね。」
マリの言葉を無視し、黙々と検索を続けた。そう言えば、マリたちの新居はどこになるのだろう。
「マリたちはどこに住むの?」
「白金台。渉君の住んでいるマンションに、そのまま転がり込むの」
婚約相手の「渉君」は、大手商社勤務だ。海外赴任も近いらしく、ひとまず彼のマンションで新生活をスタートするらしい。
「白金台ねぇ…。」
ネットの路線図を見ながら、溜息をついた。白金台での新婚生活、商社マンの夫、海外赴任。かたやこちらはネットで一人寂しく家探しだ。
―せめていい家が見つかりますように。
そう願いながら、いくつかの物件を候補にあげ、不動産屋にメールを送った。