インテリアが好きでカッシーナ・イクスシーなどによく出かける萌香は、これが良くできた椅子であることはピンときた。
「これ、なんていうクルマなんですか?」
思わず声が出て、自分でも驚いてしまった。
「ジープの『グランドチェロキー』っていうクルマです」
にこやかに答える裕太の顔は、どこか嬉しそうだ。
「では銀座に向かいます」
裕太はそう告げると、ゆっくりとクルマを発進させた。
休日の午前中の都心は空いていて、予定より早く銀座に到着した。そこでふたりは、西銀座駐車場にクルマを停めてから、東急プラザ銀座を“探検”することにした。
「私、まだここをゆっくり見ていないんですよ。すごく混み合っているという噂を聞いていたけど、いまはもう落ち着いているんですね」
「僕も忙しくて、ゆっくり銀座を歩く余裕もなかったよ」
萌香は、PANDORAのジュエリーに目を輝かせる。一方の裕太は、グローブトロッターのスーツケースをいくつか手にとり、「この銀座店限定モデル、いいよなぁ……」とつぶやいた。
ランチの時間になり、ふたりは予約したレストラン『THE APOLO』のテーブルで向かい合った。裕太が、この店に来たかった理由を説明した。
「ここは、シドニーで人気のギリシア料理のレストランなんです。出張でシドニーに行くと必ず一度はディナーに行くけれど、初めて日本に出店すると聞いていたから、ずっと来たかったんだよね」
料理はどれも目新しかった。萌香は特にシドニーの本店でもいちばん人気だというサガナキチーズを気に入った様子だった。
「この料理、初めて食べたんですけど、甘さと酸っぱさが複雑にからんでいて、そのギャップがいい感じです」
ケファログラヴィエラチーズを焼いて、そこにハチミツとオレガノ、レモンジュースを合わせた味に、“ギャップ萌え”したようだった。
ランチを終えたふたりは、クルマを停めた西銀座駐車場に戻る。休日の西銀座駐車場には、さまざまな高級車が停められている。その中にあって、裕太のクルマのデザイン性は際立っていた。
タフさとスタイリッシュさを両立した造形を見ながら、萌香は心の中で“ハイブランドのトレッキングシューズみたい”だと思った。