2025年、東京に住む人々の生活は大きく変わっていた。
産業革命やIT革命のように、2020年代にAI(人工知能)革命が起こったのだ。
AI革命が起こると、人々の働き方は様変わりした。
多くの仕事を機械やロボットが担うようになり、2010年代まであった職業が次々と消えていく。
そうして、企業が人を雇わなくなり、働く場所を失った人が溢れていった。
これは、ありえるかもしれない未来の東京で、精一杯生きる人たちの、ライフスタイルに迫る物語。
安泰の座から転落した、公認会計士という職業
2025年8月10日、藤本竜也(35歳)は人生の岐路に立たされていた。
竜也が会計士として勤務する監査法人が、スタッフを一斉に解雇したのだ。竜也は両方の眉を上げて、下から睨み上げるように言う。
「他の監査法人に移れば良いって?何言ってるんですか、もうそんな時代じゃないんですよ。俺たちの仕事は、全部、ぜーんぶAIに持ってかれてるんだ。俺たちは、AI以下なんだよ。」
竜也は椅子に深く座り、背もたれに背中を押し付けて、のけ反るように天井を見上げる。その目にはうっすら涙が浮かんでいるようだ。
細身の体ながら、いつもは大きな声で自信たっぷりに話す彼だが、今日はその片鱗さえ見えない。
「なんで…。公認会計士なら安定して高収入を得られるって言われて、青春時代を勉強に捧げて、必死に勉強を頑張ったんだよ。なのに、なんでだよ…。」
やり場のない怒りをなんとか押し込め、彼は必死に言葉をつないだ。
これは、竜也だけに起こった悲劇ではない。2010年代まで、公認会計士は高学歴、高給取りとして女性からも人気で、一歩外に出れば「先生」と呼ばれていた。社会的信用も高く、高額ローンだって簡単に組むことができた。
だが、それはもう遠い昔の話であり、AIに脅かされているのは公認会計士に限ったことではない。2020年代に入るとテクノロジーは急激に進化し、人々の暮らしは大きく変わった。
商社、銀行、広告代理店も同様に大幅な人員削減を実施し、多くの失業者を出したが、それでも間に合わずドミノ倒しのようにバタバタと倒産した。つい数年前までは、どれも高給で優秀な人材が集まる、人気の職業だったはずだ。
この記事へのコメント
コメントはまだありません。