村上春樹好きな男 Vol.2

村上春樹好きな男:兄の替わりとして眼科医の実家を継いだ彼が、『風の歌を聴け』を愛する理由

「村上春樹」の作品は好きだろうか?

彼の作品に登場する男たちは、飄々としながらBARではピナ・コラーダを飲み、自宅のキッチンでは読者の食欲をそそるスパゲッティを作ってしまうほど、料理が上手い(と思われる)。そして決まって、何もせずとも女が寄ってくる。

そんな村上春樹作品を好む男たちが少なからず東京には存在し、そんな「村上春樹好きな男」が好きだという女たちも少なからず存在する。

「村上春樹好きな男」が気になってしまうという桃子が、彼らハルキストの生態を観察していく。

初回は、いかにも「村上春樹好き」らしい、女性的でやさしい柊と「ノルウェイの森」というカクテルを飲んだ時間を紹介した。それはどこか非現実的で、竜宮城にいたかのような空虚さを感じさせるものだった。

そんな関係が終わってしばらくしたころ、桃子は柊とは真逆のタイプの「村上春樹好きな男」と出会う。

桃子の「村上春樹好きな男」のイメージをくつがえした、その人物とは…?


今週の村上春樹好きな男


名前:浩史(ひろし)
年齢:43歳
職業:眼科医
年収:5,000万円
出身、現住所:東京都杉並区
学歴:パリ国立高等音楽院卒業、東京医科大学医学部医学科卒業
好きな村上春樹作品:『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』
ほかの好きな作家:シャルル・ボードレール


「はっきり言って、眼科の仕事は、金のためにやってるだけさ。」

浩史は『風の歌を聴け』の「鼠」のような口調でこう言い放った。

「知ってる?白内障の手術なんて、誰でもできる仕事だよ。眼科医は豚の目玉を使って手術の練習をするんだ。人の目も豚の目も同じ。ひどい話さ。」

桃子は食べていた豚のリエットを無言で飲みこんだ。

「医者の仕事なんて、誰がやっても同じ。見ろよ。」

持っていた村上春樹の『風の歌を聴け』の一節を、桃子に見せる。

―彼が生きていたことと同様、死んだこともたいした話題にはならなかった―

「誰でもできることばかりしてたら、こうなる。…自分にしかできないこと、自分の存在を証明してくれることは、この世に一つしかない。なんだと思う?」

「さあ。」

「芸術だよ。」

浩史は気分よさそうに言って、横柄な態度で店員を呼び止めた。

とにかく、よくしゃべる男だ。

冴えない同期の結婚式。女性陣は気合十分で臨み…?


浩史との出会いは、誠子の結婚式の二次会だった。同期の誠子は、実に冴えない女だ。パウダーファンデを塗りたくった立体感のない顔、白ブラウスに膝丈スカート、3cmヒールの黒パンプス…カラオケ映像から飛び出してきたかのような、安っぽい「清純派」女子。

おまけに女子会にはきまって欠席し、男たちには「女子会って苦手で、なじめないんです」などとしなをつくっているというからタチが悪い。女子会の裏でこっそりと市民オーケストラに加入して練習と婚活にはげみ、そこで出会った公認会計士と手堅く結婚した。

「誠子のオーケストラ、医者が多いらしいよ。結婚式にも来るって。」

情報通の美里が意地悪く言うと、ロッカールームの女性陣は色めきだった。興味なさそうに聞いていた桃子だったが、当日は、新調したロイヤルブルーのコンビネゾンに10cmヒールのレッドソールをあわせ気合十分に出陣した。

【村上春樹好きな男】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ