エレベーターで生まれた恋。気になるイケメンとの出会いは運命の赤い糸?
必死で記憶をひっくり返してみても、やっぱり彼について思い出せることは何もなかった。
エレベーターはいつものように15階に着き、ポーン……という音が響く。エレベーターを降りるとき、その日は思い切って振り向き、彼の方に向かって会釈をした。一瞬、視線が交差して、ドキっとした。
( うわぁ、本当にカッコイイ……久々に見た。こんなイケメン ) ( やっぱり偶然じゃない……。単に私が彼を忘れているだけ? でもこんなイケメン、うちの会社にいたかしら…… )
その日から、彼のことがなんだかとても気になるようになった。仕事の合間にふっと頭をよぎるのだ。しばし仕事の手を止め、接点を洗い出そうと試みるけれど、どうして思い出すことができない。
翌日も、その翌日も彼がいた。これはもはや偶然という領域を超えている。一言も言葉を交わしたことがないのにもかかわらず、私はすでに彼に親しみを感じるようになっていた。
そして、初めて彼の存在に気づいてから今日でちょうど1週間。
毎朝エレベーターで彼のことを見るのは、すでに私の日常となっている。とはいえ、彼と話をするきっかけがあるわけではないので、この出会いに進展があることなんて期待していなかった。
ところが、今日、私たちの関係に新たな局面をもたらすハプニングが起こった。
いつものように朝のエレベーターの待ち行列に並んでいると、私の真横に彼が並んだのだ……!
彼がすぐ横にいると思うと緊張して胸が波打つようにドキドキとしていたが、同時に、私の中で“声をかけてみたい”という欲望がむくむくと湧きあがってきて、思わず声が出た。
「 よく会いますね 」
すると、彼はすごく驚いた様子で
「 ……えっ? ありがとうございます。覚えてくれたんですね。嬉しいです! 」
と言った。
すぐには意味を飲みこめず、私がキョトンとしていると、彼はこう続けた。
「 毎朝、乗る駅も乗る車両も一緒だから、ずっと気になっていたんです。しかもオフィスビルも、エレベーターまで一緒!すごい偶然ですよね。いつの間にか、勝手に親しみを覚えちゃうくらいになっちゃって。失礼しました、改めて……。僕は、このビルの25階で働いている松崎と申します 」
……ずっと私の中でひっかかっていた謎がようやく解けた。私は毎朝、どこかしらで彼のことを見かけていたのだ。道理でどこか見覚えがあると思ったわけだ。
25階といえば、有名な外資系金融会社があるフロアだ。私が勤めている会社とは業種も違うし、働いている人のタイプもまるっきり違う。グローバルでなんだか洗練されたイメージに、秘かに憧れを抱いていた企業でもある。
「 そうなんですね!私もいつもエレベーターでお見かけするなって思って、ちょっと気になってました。
私はこのビルの15階に勤めております岡田と申します。いつも会釈してくださるから、こんなカッコイイ人、うちの会社にいたっけ?って真剣に悩んじゃいました(笑) 」
「 本当にすごい偶然ですよね……。確率で言うと相当レアなケースだと思います。これもご縁だと思うので、もしよければ、連絡先を教えてもらえませんか。是非一度ランチでもご一緒しましょう! 」