結婚できない男・︎赤池直樹の決断は・・・?
半年後、僕はマンションを買った。
こだわりにこだわった内装だ。部屋の間取りも自分で自由に決められるというのが決め手になった。
麻衣子が言っていた、軽井沢『星のや』のような、ライブラリースペースになったかどうかは謎だが、まるまる一室本棚に囲まれた部屋を作った。そしてテラスに面した窓際には、デイベッドを置いて、僕は今、そこで、コーヒーを飲みながら、本を読んでいる。
部屋の温度湿度を一定に保つための電気代ガス代を算出し、ワインカーブは諦めた。その代わりと言うには恐れ多いが、36本入るワインセラーを広めに設定したダイニングの目立つところに迎え入れた。
そして大きめのウッドテラス。天気が良い日にヨガマットを敷けば、なかなかに上達した、鳩のポーズをご覧いただくことができるだろう。
◇
悪友に言われた言葉に感化され、潔く3人の女性たちに、別れを・・・言えればイイ男なのだろう。
しかし、根が、非モテな僕に、こんな魅力的な女性をみすみすフルなんてとてもじゃないけど勿体なくて出来なかった。
相変わらずパートナーの選定も、結婚も決めきれず、うだうだと決定的な言葉を言わない往生際悪い僕に、最後は愛想をつかせて一人残らず去っていったのだ。
泥酔したセクシーキャビンアテンダント・史織からは、「この非モテ野郎!一生そうやってろ!」と罵声を浴びさせられ、スタイル抜群の美人ヨガインストラクターからは、「インドでも行って、その腐った根性叩き直してくれば?」と呆れられ、インテリジェンス溢れる麻衣子からは「村上春樹好きな、ただのこじらせ男」と、捨てセリフを吐かれた。
一生に一度やってくるというモテキ。それは、魔法にかかったかのような万能感で空さえ飛べるのではと勘違いするほど。しかしそれは長くは続かない。そして僕のモテキはあっという間に終わってしまった。。
女性たちが去ってしまえば、あの祭りはなんだったのかと思うほどの、穏やかで、平凡で、相変わらずな日常・・・
やっぱり惜しいことをしたとほんのり後悔が残る。
それでも、やっぱり結婚は、人と人とが暮らすということ。相手に何かを求めるってことは、“自分らしさ”がなくちゃいけない。
あの頃の僕は、まだ自分の“自分らしさ”を模索している段階だったんだと思う。だから、振り回されていたんだ。
彼女達は僕のもとから去ってしまったが、それを僕に教えてくれたのだ。
そして僕は、夢のような祭りを、美しい女性達との日々を懐かしく思い返しながら、彼女たちが“自分らしさ”を思い描いた結婚生活の欠片を散りばめた家に暮らしている。
人の数だけ、未来も暮らしも様々。
僕はこれから本当の“自分らしさ”を見つけて、それに合ったパートナーを見つけたとき、この部屋はどんな姿に化けるのだろう。
そんなことを思いながら、デイベッドの上で、僕が手にしているのは、
アガサ・クリスティの名著「そして誰もいなくなった。」
モテキも、悪いものじゃなかったのかもしれない。こじらせ男は、もう卒業するのだ。
理想の住まいプロジェクトはこちらから
「クレヴィアクリエイティブチャレンジ」
■衣装協力
男性●ジャケット¥58,000、パンツ¥23,000、シャツ¥18,000〈すべてデザインワークス〉、ネクタイ¥14,000〈アトリエ エフ ビー/すべてデザインワークス ドゥ コート銀座店 TEL03-3562-8277〉 白ニット¥12,000〈アバハウス/アバハウス ラストワード原宿店 TEL:03-5466-5700〉
■主演
赤池直樹役:大迫一平