
その名はサエコ:東京悪女破れたり...さすがのサエコも万事休す?
彼氏がいるのに、他の男とデートを重ねる。
もはや現代の東京において責められたものでも何でもないそのちっぽけな事実でさえ ーそれを分かった上で仕組んだという自分の非を棚に上げてでもー サエコの過ちを咎めたかった。もはや溺れる犬のようなさとみだが、その点を突くことでしか、サエコより優位な立場に立つ方法はないように思われた。
サエコは、少し困ったように笑った。
「なんだ、さとみちゃん、知ってたんだ。」
「噂でね。知ってたのに、合コン誘っちゃってごめんね。」
サエコは首を振る。一歩アドバンテージをとった気がしたさとみは、少しだけ調子を戻して言葉を続ける。
サエコのための言葉に見せかけた、単なるタクミへの感情の吐露だった。
「サエコちゃんに早く言わなきゃいけなかったんだけど、あの男本当に女たらしでね。ううん、女たらしなんてもんじゃない。女狂いのもはや病気よ。私は中等部時代からよく知ってるんだけど、女をボロ雑巾のようにしか思っていない男なの。」
誰のための忠告なのだろうか。
まるで自分に言い聞かせているかのような錯覚に陥るが無視して続けた。
「見栄えもルックスもあぁでしょう?女の子はころっと騙されちゃうんだよねぇ... あの場にいた女の子たちには、忠告したんだけど、サエコちゃんに言ってなかったよね。ごめん。大丈夫?キケンな目にあったりしてない?」
そこまで一気に捲し立てると、サエコは、要領を得ないような顔でさとみを見つめている。
サエコを嵌めた過去が、貶めたいと願った心の内が、その目をまっすぐに見ることを躊躇わせたが、この言葉には嘘偽りはない。
しばらくさとみをじっと見つめたサエコは、ぽつりと言った。
「それ、誰のこと?」
「凡庸な女が自分よりいい男と付き合うなんてありえない」... 女たちの加速する悪意と思惑...
サエコの彼氏と寝ることに成功したアン。アンとの関係を続けるサエコの彼氏。
刺客を仕向けたつもりが、自分の存在価値を確かめるためにタクミと寝てしまったさとみ。
一切の連絡をよこさないタクミ。
そして、恋人の浮気を知ってか知らずか、タクミ?とデートを繰り返しているというサエコ...
一体、彼女たちの誰が悪女なのか?
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