
その名はサエコ:東京悪女破れたり...さすがのサエコも万事休す?
アンは、ベッドから立ち上がった。バスルームは前回教えてもらったとおりだから、2度目の今日は迷わない。THREEのシャンプー&コンディショナーに、AROMATHERAPY ASSOCIATESのバス&シャワーオイルが並ぶ広いバスルーム。
カランをひねると勢いよくシャワーから湯が流れ出し、アンの体を心地よく濡らしていった。おそらくサエコのものであろうAROMATHERAPY ASSOCIATESのオイルにアンは遠慮なく手を伸ばすと、とろりとした液体を体にたっぷりと滑らせた。
カモミールや、べチバーの香りに混じり、サンダルウッドの深いアロマが浴室に濃く広がった。
アンは、その香りを十分に吸い込むと、えも言えぬ幸福感に包まれていった。シャワーの音に混じれば、もはや、笑いをこらえる必要はなかった。
高笑いの影で、さとみ VS サエコの対決が静かに進む...
サエコの言葉に、固まったさとみは、震える心を隠しながら、サエコに問う。
「そうなんだ?だれだろう?」
サエコは、さとみの反応を楽しむように言った。
「あの中で一番の有望株、かな。」
あの夜の女たちの、タクミを見る媚びた視線を思い浮かべる。
—タクミだろうか?タクミにちがいない...—
想定通りのシナリオのはずだった。さとみが嫉妬で、道を踏み外しさえしなければ。
己の過ちが憎らしかった。しかし、状況が変わった今となっては、自分をその他大勢の女と同じように使い捨てておいて、タクミがサエコと何度もデートしているだなんて許せない。自分には、メールのひとつもよこさないで、サエコにご執心など言語道断だ。
煮え返る心を隠し、ひきつる顔を笑顔で覆う。
「あれ。けど、サエコちゃんって、彼氏いなかった?あの、すごい大富豪って噂の...」
途端に、サエコの顔から、先ほどまでの余裕の笑顔が消えた。
勿論さとみは、サエコの彼氏とアンとの関係など知る由もない。
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