広尾ヒマダム Vol.6

広尾ヒマダム:家柄or金?幼稚舎受験戦争のなれの果てとは……

前回までのあらすじ

広尾のヒマダム澄美は、夫が暇を出した家政婦、薫を自分の娘だと思い込んでいた一件は、大学の同級生、久美子の謀ったことだったと知る。久美子と直接対決し、その後久美子と夫が話し合い、今後一切関わらないこととなったが、澄美は、鬱屈した日々を過ごしていた。しかし、春の訪れとともに、旅行という新しい楽しみを見出そうとしている。

Vol.5 広尾ヒマダム:暇すぎて馬に目覚め、なぜかキャットファイト!

美咲さん

お元気? そちらはまだ朝は暗いのかしら? 東京の桜は先週散り始めました。あれほど期待されながら、すぐに散ってしまう桜の花には、若いころは美しさを感じたものだけれど、最近は儚さしか感じません。

特に、桜の便りが聞こえてからのあの寒さ。なんだか、本当にさみしい気がします。窓の外を見れば雨。菜種梅雨、催花雨なんて言葉もあるのですね。

そういえば最近、銀座によく行くので、銀座にマンションとかあったら便利じゃないかしら? そう思って、『銀座タワー』とか2LDKで1億しないのでいいんじゃないかしら? と思って買ってしまいました。

そうそう、真紀ちゃんって覚えている? 昔、お父様の秘書をしてくれていた子なのだけれど、彼女は、お父様の取引先の会社のお嬢様で、うちには結婚するまでの間、花嫁修業に来ていたのです。真紀ちゃんは、お父様の会社には2、3年しかいなくてすぐに結婚したのだけれど、今年坊ちゃんが小学生になったそう。お祝いを送ったら、お礼に真紀ちゃんがいらっしゃいました。「坊ちゃんは?」と聞いたら、「学校です」って、そうよねえ、平日の午前中ですもの、まだ学校ですね。

真紀ちゃんがいらしたのは、どうも私に相談ごとがあったようで、実は真紀ちゃんは坊ちゃんを京浜幼稚舎に入れたかったらしく、小さいころから月謝の高い積み木教室に通わせたり、いろいろと幼児教育のお教室に通わせていたのです。

どうしても幼稚舎に入れたくて、お知り合いの方に紹介されたお受験の専門の先生に、受験までの1年間で1億円ぐらい払ったらしいわ。ところが、幼稚舎に落ちてしまって、けっきょく「お受験小学校」と呼ばれる小学校に入学しました。それで、真紀ちゃんはそのお受験の先生を詐欺で訴えると言っていました。

本当にこの手の話は、この時期多いですね。某ホテルのお偉いさんに「この方に任せておけば必ず安心だから」と紹介された自称京浜幼稚舎のジムナスティクスの先生に、何度も御食事を御馳走して、そのたびに御車代と称して帯封付きの小束を渡していたらしいのね。10回以上と仰っていたから1000万円は下らないわね。

結果は不合格。

やっぱりお父様が代表取締役とはいえど、中小企業だったから難しかったんじゃないかしら。オーナー企業の御子息なんか一円も払わず入学しますからね。その後の寄付金は莫大ですけど。やっぱりお金でどうにかして幼稚舎に入れようという発想自体が貧困だわ。入ってください、と言われるくらいにならないと。


それにしても真紀ちゃんの怒りの矛先は坊ちゃんにも向かっていて、「入学式の前の晩におねしょなんかして」とか、「記念写真のときに、まばたきばかりして」とか言っていました。

「訴訟なんか起こしても、坊ちゃんが晒し者になるだけじゃありませんか。おねしょだって、お受験に失敗してがっかりしているお母様を見て、入学式の前で緊張してしまったのでしょう。何より、6歳ぐらいの子が「京浜入りたい、早稲畑入りたい」なんて、本気で思うわけないのですから。お母様を喜ばせたくてがんばってきたのですよ。それだけでも褒めてあげて欲しいわ」

「でも、同じ幼稚園の方が受かったのですよ。彼女は地方出身で、そのうえご主人はサラリーマンなのに。私のメンツはまるつぶれですわ」

「子供がご自分の気に入った学校に入れなかったことでつぶれるようなメンツなら、捨てておしまいなさい。お受験に失敗しても、坊ちゃんの価値は何も変わらないわ。今は失敗だと思っても、あとから『あれでよかった』と思える日が来るわ。そして、そういう風に思わせるのも、母の務めですよ」

この言葉がどう作用したのかわからないけれど、真紀ちゃんは坊ちゃんをスイスの『ル・ロゼ』に通わせると言い出しました。あなたにも連絡がいくと思うので親切にしてあげてね。

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