
その名はサエコ:策に溺れた女。サエコの逆襲が始まる......?
「サエコちゃん。」
会議が終わると、さとみは、サエコに声をかけた。
言葉に、毒々しい悪意の色が溶け出さないように、ドロドロの嫉妬の温度が伝わらないように、声のトーンをオクターブ上げる。
「この前は合コン来てくれてありがとう。」
合コンに来てくれた礼を伝えながらも、さとみの腹の中は、タクミからの連絡が来ているかどうか、デートに応じたのかどうかでいっぱいだ。
サエコの瞳は、静かな中に光をたたえていて、何もかもを見透かすような、それでいて何も気づいていないような気もした。
「いえいえ、こちらこそありがとう。楽しかった。」
如何に嫌味なく、タクミに関する情報のアップデートを遂行するか......さとみの思惑がぐるぐると塒を巻く。
しかし、ここは手練のサエコのこと。下手な小細工するよりも、単刀直入にストレートに聞くのが良いだろう。幸い、幹事のさとみは、質問をぶつけたところで何の不思議もないはずだ。
「ねぇ、あれから、あの中の誰かと、進展あったりした?」
サエコは、射抜くようにまっすぐにさとみの瞳を見る。
結婚相手に資産を尋ねるような、卑しい女を見るようなサエコの視線に、一瞬たじろぐ。自分がどこまでも落ちぶれた女になったかのような感覚に目眩が起きそうだ。
サエコは、視線をずらして、一瞬考えたような表情をしたのちに、ピンク色の唇をさとみの耳元に近づけた。スパイシーな白檀の香りがふわりと鼻腔を抜ける。
ベビードールのような甘い香りかと思いきや、ウッディな香りにさとみは驚いた。
そして次の瞬間、耳元で囁かれたサエコの言葉に、さとみの頭は真っ白になった。
「おかげさまで......実は、何回かデートしてる人がいるの。」
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