文具の品格 Vol.5

文具の品格:知らないと恥ずかしい、試し書きで「永」を書く理由

前回までのあらすじ

“ホンモノ”の都会のオトコへの第一歩を踏み出すため、「ブルーアワー」という高級万年筆(17万6000円) を一括払いで購入したデキ男営業マン・森裕哉(もり ひろや)。

ある水曜日、裕哉を「仕事できなそう」と噂した美人先輩社員・千佳から誘われ、丸善・丸の内本店へ2人きりの「上司へのプレゼント選び」に行く。千佳の本心が読めず、戸惑うばかりの裕哉は――。

Vol.4/文具の品格:可愛いカフェ店員は必ず“アレ”を使っている!

初体験の書き心地、『パーカー インジェニュイティ』

「このペン、どう思う?」

千佳は、ガラスケースの中を指さしながら振り向き、こちらににっこりと笑いかける。遅れて、千佳の髪から甘い香りが漂う。


裕哉は、以前ビジネス系の雑誌で見たことのあるペンで安心した。
「『パーカー インジェニュイティ』、ですか……」

「って言うんだね。珍しいデザイン! ちょっと試し書きさせてもらおうよ」

裕哉は千佳に促されるがままに、そばにあった試筆台に置いてある『パーカー インジェニュイティ』を手に取った。ラバーボディのやわらかい感触とほどよい太さが、裕哉の少し大きめの手にぴったりと吸い付くように馴染む。

「僕、これ初めて使うんですけど……持った感じは、いい感じです」

そのまま手に持った『パーカー インジェニュイティ』で、試筆紙にくるくる、と円を書く。

――その初めての書き心地に驚き、裕哉ははっと息をのみ、目を見張った。それは裕哉がいつも使っているボールペンの書き心地とも、『ブルーアワー』の万年筆の書き心地ともつかない、すべるような、撫でるようななめらかさであった。

そしてインクも紙の上で全くにじまず、ボールペンとも、万年筆ともつかない新しい形をした少しばかりしなるペン先からは、軽い力をかけるだけで濃くシャープな線がいつまでも出てくる。裕哉は夢中になって、しばらくそのまま試し書きをし続けた。

「安浦さん、これやっぱり、なんだかすごいです」

「本当に! 貸して貸して」

裕哉は千佳に、持っていたペンを渡す。彼女が『インジェニュイティ』を持つと、自分が持ったときよりも大きく見えた。彼女の華奢な右手に思わずドキッとする。これまで緊張ととまどいで気づかなかったが、思えば、裕哉が女性と2人きりで出かけるのは、久々のことであった。

(女性の言うことにいつも右往左往して中2レベルで毎回ドキドキするのは、絶対的な経験値=デートをしていないからじゃないか)

少しばかり、裕哉は自分に苦笑する。

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