女優とディナー Vol.3

女優とディナー:人気モデル・松井愛莉を凍え死にさせかけた伝説のデートとは?(1話読み切り)

――抜群のスタイルに、正統派で清純な顔、さらにその圧倒的魅力を放つビッグスマイルを前にして私が思っていたのは

「帰りたい」

ということでした。

さらに寒さに震える松井愛莉にマネージャーさんがホッカイロを8個くらい渡しているのを見たときは、不安を解消する薬ドグマチールを8錠飲みたい気分になりました(実際に飲んだのは1錠です)。

しかし、こうなった以上、この場所で最後までやり遂げるしかなく、とりあえず、私は寒さに震える彼女に対して

「松井さん、火の近くだったら温かいかもです……」と、鉄板の方へ誘導し、緊張と寒さに震える手で肉を焼き始めたのですが、突然、強風が吹き荒れ机の上のグラスが吹っ飛び、そのうちのひとつが音を立てて割れました。「す、すみません、すぐ片付けます!」と片づけを始めたのですが、そうこうしているうちに鉄板の上のA5の肉が、アルティメット・ウェルダンかってくらい丸焦げになっていて、それを誰にもばれないよう紙皿に移しながら思いました。

(どうしてもっとBBQを経験してこなかったんだ――)

私は学生時代からBBQを蔑んできました。「BBQやろうぜ」と二子玉に向かう男たちに対して「なんて浅はかで陳腐なやつらなんだ」とあざ笑い、漫画喫茶で新井秀樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』を繰り返し読む自分に酔いしれてきました。しかし、あのときBBQをやっていれば、今回のような事態を防ぐことができたはずなのです。

しかし、時すでに遅し――。このときの『宮本から君へ』の宮本であれば、BBQ素人のまま目の前の困難に立ち向かっていたのでしょうが、私は、ただただ今目の前にある状況が悪い夢であることを祈って、焦げたトングでほっぺをつねろうとしていました。

しかし、そのときでした。私の耳にこんな言葉が飛び込んできたのです。

この記事へのコメント

Pencilコメントする

コメントはまだありません。

【女優とディナー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo