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東京DINKS Vol.8

東京DINKS:遊びの恋を本気にさせた言葉、どうしようもない嫉妬が始まった夜

ーさすが石黒さん、綺麗な人を連れてるなー。やっぱり彼女いるんだ。まぁ、当然か……ー

お互い1人でいたら声を掛けて、あわよくば2人で一杯、なんてことになったかもしれないが、葵の隣には太一がいる。ふと太一の方に視線を戻すと、正面の東京タワーに見とれているようだった。

葵は、石黒の彼女らしき存在に軽いショックを受けながらも、月曜日に同期のユウカに報告しなきゃと考え、ユウカの反応を想像しながら歩いた。

予約していた店に着きカウンターに座ると、太一の熱心なスター・ウォーズトークが始まった。葵は太一の話を聞き流しながら、石黒と一緒にいた女性のことを考えていた。自分が好意を持っている相手がどんな恋人と付き合っているのかは、興味がある。

そのせいか、今まで聞いてはいけないことだと思っていたし、聞かない方が良いとも思っていた質問を、葵は初めて口にした。

「ねえ、太一さんの奥さんってどんな人なの?」

一瞬、ビールを飲む手を止めて「え、急にどうしたの、何かあったの?」両方の眉毛を上げながら太一は心配そうに答えた。

「何ていう名前なの?」

「どうして?知りたいの?」葵の質問に対して太一も質問で返してくる。

「教えてくれないの?じゃあ自分で探す。私、奥さんにばらしちゃおっかな。」葵が屈託のない笑顔で言った。

「ちょっとちょっとやめてよ。そんなことしても、お互いデメリットしかないって。」

「じゃあどんな人か教えて?」語尾を上げて甘えるように、さっきと同じ屈託のない笑顔で葵は聞いた。一瞬の間を置いて、やれやれというように太一は答えた。

「天才。」

一言で返された答えが、あまりにも想像と乖離していたことに葵は戸惑った。

「天才って……何の?じゃあ、私は……?」

「葵は可愛いよ、すごく。」

太一の答えはそれだけだった。「天才」は美人や優しい、料理が上手いなんかよりも圧倒的な敗北を感じさせる言葉だった。何を以って天才と言っているのか、葵にはわからなかったが、確実に自分が劣っていることはわかった。

自分が勝っているのは若さだけなのだと感じると、葵の嫉妬心は破裂しそうな程一気に膨らんだ。


次回2月7日更新予定
第9話:愛子はもう一度、寛と密会…?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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