2015.12.29
編集長オーツキの 磨け、バカ舌! 学べ、オトナの遊び Vol.48テレビも魅力的ですが、言葉尻を捉える週刊誌の連載では、毎週敬服しきり。あの着眼点のすごさたるや…、はっきりいってファンです。そんな私が敬愛してやまない能町みね子さんが、あのファッション誌『装苑』の連載にて、『東京カレンダー』を題材に、執筆していただきました!
ということで、今回、東京カレンダーwebサイトへの転載をお願いし、快く快諾いただきましたので、以下、ノーカットでお楽しみください。ちなみに、東カレさんってかなり私に近い人間像だったりします。『装苑』最新号も好評発売中! ぜひ!
2015年、あるネット連載が注目を浴びました。秋田から上京したOL「綾」が数年おきに自分の住む街を語る。三軒茶屋、恵比寿、銀座と、「以前よりグレードの高い街」に移り住みつづけ、何人かの男と交際を重ね、結婚し、別れ、そして……。
このエッセイ調のフィクション連載は、綾が前に住んでいた街を毎度けなしたり、比較的高収入の生活をひけらかしていることからけっこうな反感を持たれつつ、確実におもしろがられていました。
連載はおそらく一定の共感も得られながら数回続き、現在は男性「拓哉」編が連載されています。この著者となっているのが今回取りあげる雑誌、「東京カレンダー」編集部なのです(今回は文中で「東カレ」とします)。
このネット連載、文中でやたら実在の料理店(しかも大半が高級店)が登場しますが、それは本来「東カレ」がおいしいお店を紹介する雑誌だからです。実際、誌面でも「路地裏の名店」「教えたくない隠れ家店」なんて言葉が連発されています。
登場する地名も中目黒、銀座、代官山、麻布十番などで、いかにも良い店のありそうな場所ばかり。読者は当然、ほぼ東京近郊在住に限られるでしょう。
さて、話題になった連載の主人公は女性ですが、東カレさんはどう考えても男性。誌面の広告から考えるとやはり収入は高めのようです。お仕事はかなり充実してそうな様子。
彼らがなぜおいしいお店を探し求めているかというと、もちろん本人がグルメだということもあるし、たまには接待のためということもありますが、おおむね綾のような女の子を誘うためでしょう。
ただ、モテたい、ヤリたいと言うギラギラ感はそんなに強くなく、女の子においしいお店を教えたくてしょうがない、女の子に対して食の蘊蓄を披露して尊敬されたい、という気持ちのほうが強そうです。
おいしいお店については常に男女問わず誰かに教えたい気持ちがあり、「食べログ」もものすごくチェックしているはず。女の子とおいしい食事をすること自体が目的になっていて、ついでにその先まで行ければラッキー、というような余裕すらあります。
誘う子も、年齢はそんなに若くなくていい。ちょうど綾のような、少し生意気なくらいの女の子が好みです。東カレさんは、もはや「女の子と、会話というゲームを楽しむ」みたいな気持ちに達しています。そんな枯れた感覚になれた自分自身のことも好き。だから、むしろ20代前半の子はちょっとご遠慮願いたいくらいです。
そんな彼らが何を好むかというと、おそらく、結局肉になる。ご飯屋さんの中でも焼肉屋とホルモン屋にものすごく詳しいと思われます。焼肉は店自体に気後れすることが少ないから、誰でも誘いやすいんです。
東カレさんは食そのものが好きなので、自分で作ることもあります。ただ、たまにしか作らないくせに凝り性なので、変な調味料をついたくさん買って家に余らせがち。
女の子を家に呼んで振る舞えればいいんですが、厄介な関係になるのも面倒なので、パーティーみたいな形にして大勢にふるまうほうが気は楽。
東カレさんは、仕事もプライベートも充実していて、いつでもうまい飯を女の子と食べに行きたい、世話焼き好きの中年男性です。なかには彼の蘊蓄や恩着せがましさにちょっとイラつく人もいるのですが、本人は全く気にしていない。
いいものばかり食べているので、いまいちばん心配なのは健康診断の数値という平和な男。
『装苑』2016年2月号 ¥552 文化出版局刊 絶賛発売中
「能町みね子の雑誌の人格」
2010年1月号から始まった、漫画家で文筆家の能町みね子さんの人気連載企画。能町さんが面白いと思った雑誌を毎月一冊ピックアップし、独自の視点と鋭い観察眼で読者像をプロファイリング!イラストと文章で、それぞれの雑誌に秘められた人格を読み解きます!2013年5月号まで掲載された、40媒体をまとめた書籍『雑誌の人格』(文化出版局)も好評発売中。
能町みね子
Mineko Nomachi
文章やイラストの仕事のほうが多い漫画家。雑誌やネット媒体で、コラムなどの連載多数。「久保みねヒャダ こじらせナイト」(フジテレビ系)に出演。『お家賃ですけど』(文春文庫)、『ときめかない日記』(幻冬舎文庫)が発売中。
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