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東京☆ビギナーズ Vol.5

東京☆ビギナーズ:西麻布、東京を味わい尽くした肉食女子社長との闘い。

人生も肉も味わい尽くした志穂を前に、言葉にできない事態が…


「さっそくお肉食べましょうか♡」

「あ、はい!自分、注文しますんで!まずはビールに塩タン…」

「ちょっと待って!」

「え、あ、はい…。」

若干年上だからなのだろうか。プレイバックさながらの力強いストップの合図とともに、彼女はこう続けた。
「私こう見えて、肉食女子というか、肉にうるさいというか…。私が頼んじゃっていいですか?♡」

そういっておもむろにメニューを閉じると、彼女は店員にこう囁き出した。

シルクロース
ザブトン
ミスジ
トモサンカク
カイノミ
ランボソ
クリ
シンシン

― な、なんの呪文なんや…。―

「やっぱり、『イチボ』以外赤身じゃないの!」

― に、肉の部位なのか…。―

「あと、赤身にはやっぱり赤ワインを合わせないとね!若いヴィンテージだと、ブレンドタイプで味に複雑さのあるものがいいよね。単一品種は果実のボリューム感がポイントだから、やっぱりニューワールド系かしら?例えばチリの名ワイナリー、モンテスとかのだと、熟成感があってあっさりした赤身の旨味を引き立てるし、ぴったりだと思うの♡」

「ねぇ、シンゴ君はどう思う?ワインとお肉、どの組み合わせが好き?」

― ど、どうしたらええんや…。―

慣れない東京の高級焼肉店で、肉の極みともいえる乙女社長に完全にリードされた上、まさかのパスに言葉を失ってしまう。

こっそり、優子にSNSで助け舟を求めるも、案の定完全に既読スルーであった。

シンゴが選んだのは、国民的なあの組み合わせ方

「フフッ。シンゴのやつテンパってるなぁ。めちゃくちゃ楽しいわ(笑)存分に東京の荒波を感じて貰いたいものね。」

LINEを既読スルーしながら、腹黒モードでほほ笑むのは、優子だ。もうお分かりだろうが、いい女を紹介するといいつつ、ややこしい焼肉奉行のハイスペックアラサー女子をぶつけることで、シンゴを困らせてやろう、というのが狙いだ。

―どうしたらいいんや…。このまま情けなく無言のまま肉を食べるなんて、男として悔しすぎる…。ぐぬぬ…。―

「やっぱり厚みのある肉は、この焼き方に限るわね♡」

焼奥義“ブリッジ” をリアルに目の当たりにしたシンゴは、ふと、東京にきて初めてお台場から見たレインボーブリッジを思い出していた。

― 俺は一体、何のために東京に来たんだ。これしきの試練…。やるしかない。―

「志穂さん。」

「?」

「僕なりに最高のやり方で、この肉たちを食したいと思っています。あえて、白ワイン、いいですか?」

「え、でもそんなんじゃ味のマリアージュが…」

「こうするんです!!!!」

そういって、シンゴは『白ワイン』ボトル一本を一気に飲み干し、高級なイチボなどの『赤身』を一気に食べつくした。

「志穂さん、これこそが最高の味のマリアージュ『紅白歌合戦』ですよ!!!!」

「私、帰るわね。」

勢いだけでは、東京肉食女子を倒すことはやはり出来なかったシンゴ。
失意の中、やっぱり赤身には赤ワインだわと思いつつ、一人焼肉を平らげていた。

―――

そんな中、ふと会社の携帯がなる。同僚のアートディレクターの「理恵」からだ。

「シンゴさん、大変です。例の案件、なくなるかもしれません…。」

彼に、また一つ東京の荒波が押し寄せようとしていた。

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東京☆ビギナーズ

大阪から東京に転勤してきた、大手インターネット広告代理店に勤める28歳シンゴの上京話。

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