※本記事は、2016年に公開された記事の再掲です。当時の空気感も含めて、お楽しみください。
前回までのあらすじ
結婚後、子どもを持たない生活を選んだ太一と愛子。結婚前と同様に時間とお金を自由に使い、お互いを尊重し干渉しない暮らしに満足している2人。結婚して3年を過ぎても仲の良い夫婦関係を保っているが、太一には愛子とは別の「彼女」の影が見える…。
東京DINKS第2話: 隣の芝は本当に青いか?ホームパーティに見るそれぞれの価値観
「この香り、この濃厚な味、何度食べても感動するのよね〜」
目尻を下げて恍惚の表情を浮かべる愛子を見た太一は、満足感で満たされた。
12月26日土曜日、太一と愛子は麻布十番の『かどわき』を訪れた。この店のトリュフご飯を愛してやまない愛子のために、1日遅れのクリスマスディナーにと太一が予約していたのだ。
25日は太一に会食が入ったため、愛子はクリスマスなのに予定が入らないと嘆く後輩3人の愚痴を聞くのに付き合った。それに、土曜日の方がゆっくり過ごせるからと26日を2人のクリスマスとしたのだ。
愛子はスーツに合わせやすいサン・ローランの黒のベルトを、太一はボッテガ・ヴェネタの財布をプレゼントし食事を始めた。
トリュフご飯を食べ終えると「もう本っ当に満足!たいちゃんありがとー!で、来年のクリスマスはどこのレストランに行こっか。」愛子が上機嫌の証である、太一の呼び名「たいちゃん」が出てきた。
「もう来年のことかよ」苦笑いする太一。
「来年のクリスマスは何曜日かな。やっぱりできれば24日か25日に行きたいよねっ」そう言って愛子はiPhoneを取り出そうとバッグのポケットに手を入れると、1枚の名刺が指に当たった。
ーそういえば、名刺もらったんだー
「あ、来年は24日が土曜日だよ、ちょうどいいね!」
名刺は見なかったことにして、愛子ははしゃぐ。
「じゃあ24日だね。新しいお店もできるだろうから、ゆっくり考えような。」
そう言って太一は、残っていたワインを飲み干した。
いつもと同じ、夫婦2人の団欒。
DINKSである2人にとって、夫婦の団欒は自宅のダイニングテーブルに限らない。六本木のビストロでも、銀座の割烹でも、ハワイのビーチを望むレストランでも、いつでもどこでも2人でテーブルを囲めばそれが団欒となる。そのフレキシブルな自由さや大らかさがこの上なく気持ち良い。
だが、今夜の2人は少し事情が違った。24時間前、それぞれに起こった出来事が靴の裏に付いたガムのようにしつこく、頭の隅から剥がれないのだった。
◆
12月25日金曜日 21時
太一は「彼女」の葵と恵比寿の『アべス』にいた。
愛子には外せない会食が入ったと言ったが、ある意味これはまさに「外せない会食」だよなと自分を正当化させながら葵とともに店に入った。
食事を終え、デザートが運ばれてくるのを待つ間に、太一は鞄からティファニーの箱を取り出しそっとテーブルに乗せた。
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