東京DINKS Vol.2

東京DINKS:隣の芝は本当に青いか?ホームパーティに見るそれぞれの価値観

それに対してアッパー夫妻旦那の誠が「いや、ちょっと待ってよ。ビジネス書だよ?ハードカバーだから1,800円するけど、文庫化まで待つとか、そういうものじゃないんだよ。仕事への投資だよ。」

と顔の前で大きく手を振り、「そうだよな」と言わんばかりに男2人の顔を交互に見る。

その暮らしぶりが羨ましいと思っていた愛子だが、アッパー夫妻もそんな小さな金額にこだわるのかと可笑しくなった。

そんな中、家主である太一が「女性は小さい金額にうるさくて、逆に大きい金額には意外とこだわらなかったりしますよね。」とアッパー夫に手を差し伸べる。

ナチュラル夫の直樹も続ける。「わかります!うちはハーゲンダッツを買って帰ると怒られる。あと、電気の消し忘れも。でも20万を越えたあたりの、家具や家電を買うときの1〜2万円の差は、確かに明日香は気にしないよね」

すると直樹の妻である明日香はこう嘆く。「ハーゲンダッツは週に何度も食べるアイスじゃないの。あんなにしょっちゅう買ってくると、一言言いたくもなるわよ。」

見かねた家主の愛子が「じゃあ週に1回はハーゲンダッツを許してあげなよ。私もSK-Ⅱのシートマスクが週に1回の贅沢よ。」と折衷案を出しつつ、「まあ、1枚1,700円のパックに比べれば安いけど…」と自分の例を取り上げる。

すると愛子の旦那である太一が「え、日曜の夜によくやってるあれ?使い捨てだろ?」と愛子を軽く問いただす。

「まあね。でもそれも、将来への投資よ。ですよね!」

はにかんだ笑顔で、愛子はアッパー夫妻の旦那誠へ同意を求める。

「投資って、便利な言葉ね。私も使わせていただくわ。」

恵が皮肉を込めて仰々しく返す。

「でも一緒に暮らすには、お金の使い方って大事よね。これから結婚する友達には注意するように言ってるよ。一番価値観が表れる所だから、相手が何に一番お金を使っているかをしっかり知っておけば、結婚後の不幸はかなり免れるって。」

明日香は酔いも手伝ってか、少し得意げな様子だ。

「そう、結婚相手を探すのに手っ取り早いのは行きつけのお店を持つことだと思う。」

愛子が被せるように喋りだす。

「知っての通り、私と太一は祐天寺に住んでいた頃に通ってた『ナワバル』の常連同士じゃない?何度か顔を合わせる内に意気投合して、そこからは早かったわよ。きっとお店の常連同士って、お酒と食の趣味が合うとか、落ち着くポイントが似てるとか、価値観が近いのよ。だから下手に合コンに行くより実りがある。恋に発展しなくても、友だちは増えるし。だから独身の友達には口を酸っぱくして言ってるもん、一人で行ける、いい感じの行きつけのお店を作れって。」


愛子の持論を聞きながら席を立ちトイレに入った太一は、ポケットからiPhoneを取り出す。何度かバイブが鳴っていたのは恐らく彼女からだろう。太一はロック画面では本文も着信も表示されないようLINEを設定しているため、アプリを開くまで誰からのどんな内容なのかがわからない。LINEアイコンの右上には赤丸で囲まれた「3」が表示されている。開くとやはり3通とも彼女からだった。

内容は来週の約束の確認で、最後には猫スタンプが送られていた。彼女のお気に入りシリーズで、ニヤリとした表情の両手で丸を作っている「OK」スタンプ、大量の汗をかきながら土下座している「ごめんね」スタンプ、ハートを飛ばしながら飛び跳ねる「ありがとう」スタンプをよく使う。

太一が返信するとすぐに、吹き出しの横に「既読」の文字が表示された。
画面に現れた飛び跳ねる猫を確認し、太一はリビングのドアノブに手をかける。


次回12月27日更新予定
第3話:太一の「彼女」ついに現れる。東京DINKSにとっての「彼女」とは

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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