汐留タラレバ娘 Vol.1

汐留タラレバ娘Vol1:陳列棚の奥へと追いやられる、34歳独身女3人


振り向くと、40代半ばと思しきゴルフ焼けした肌の男が立っていた。

「営業部の玉置です。初めまして、かな?」

採用情報欄にも会社の代表社員として仕事のやりがいを語っている玉置のことは知っていた。笑った目尻には年相応にシワが刻まれている。

「これから、よかったらカラオケ行きません?営業部の連中もいるんだけど。」

いかにも営業部の稼ぎ頭然とした堂々とした立ち振る舞いと声の大きさにびっくりし、うまくリアクションがとれずにいると、「決まりね!」と笑った。有無を言わせずぐいぐいと巻き込む玉置の強引さは営業畑の男の特徴かもしれないが、話したことすらないアキコの名前を知ってくれていたことに、落ち込んでいた気持ちが少し華やぐ。

ここ最近は、気付けば癖のように男性の左手の薬指をチェックしているが、玉置の薬指は何とガラ空きだ。


貴理子と、なお美を見ると、面倒だと言わんばかりの表情だが、心が浮足たっているのがわかる。


34歳。彼氏なし。

歳を経れば経るほど、合コンのオファーも、出会いのチャンスも、3倍速で減っていく。20代の頃は、一回りも年上の男性から、同い年、年下まで全てが恋愛の守備範囲内だったのに、気付けば、年上の男性も、同い年の男性も、ほぼ売約済。残ってるのは、5個以上下の男の子か、既婚者の男のみという事実。

急速に売却先のターゲットシフトが求められているのはわかっている。しかし、年下の男からBBA扱いされる恐怖に及び腰になり参入障壁は想像以上に高い。この頃アキコは、スーパーの陳列棚の奥へ奥へと追いやられる肩身の狭いおせんべいの気分がよく分かる。


男性からのオファー自体がめっきり減ってきた34歳の女たちにとって、男からの誘いを受けるチャンス滅多にないのだ。

久しぶりの胸の高鳴りに、何か始まる気がした。

この記事へのコメント

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No Name
これまた読みたいなー!
2020/05/02 00:521

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