私の嫌いなオトコ Vol.1

結婚を二度した女がレストランで思う「しゃべりまくる男は嫌いだ」

とにかく、しゃべりまくる男が苦手だ。自己顕示欲の塊にしか見えない。

背が小さいか、
彼処が小さいか、
はたまた、愛情不足のマザコンか。

これ、しゃべりすぎる男のほぼ100%に当てはまる三か条。
そして、モテない。

多くの言葉を使わずにして、パーソナリティが見える男。
それがモテる男。

30歳を超えた男性なら、知識をひけらかさなくたって、
その人の持っているものは、必ずや纏う空気となって漂うものなのに。

薔薇のつたが象られた鉄製の重い扉をいつものように開けて、『しがらき』に入る。
オープンカウンターの中で料理をする彼は、振り向いて軽く会釈をして、一番端の席へと目線を送る。
いつもの私の席。


「なににする?」
わかっているはずなのに、私におうかがいをたてる彼のひと言は、エチケット。
エチケットとは、マナーではなくて、思いやりのことを指す言葉だと思う。


最初のシャンパーニュを飲むと、毎度のことながら惚れ惚れする。
1種類しか開いていないシャンパーニュ、銘柄はいつも違うのに、絶対に美味しい。
ワインにまつわるたくさんの知識を語られるより、味わいがきちんと教えてくれる。
彼のワインにおける造詣の深さ、扱いの丁寧さを。

女が心を動かされるのは、こういうところ。
彼を好きになって、いわゆる「幸せ」になれるかどうかは、別問題。
そんなことはわかっている。

でも、パリッとのりのきいた真っ白のコックコートの大きな背中、
フライパンを振る引き締まった腕、も手伝って、
だまされてもいいと思えるのだ。

「はい」とカウンター越しに静かに手渡されたのは、
桃とルッコラ、生ハムのサラダ。

夏の盛りで、たっぷりの甘さを蓄えた桃から、
瑞々しい果汁がこれでもかと溢れ出すと、
ほんのり感じる渋味が、ベジョータの膨らむ旨み、ルッコラの苦味と
口のなかでつなげる。そして、後味に追いかけてくるのはミントの清涼感。


いま私が口にしているシャンパーニュのニュアンスが、
すべて詰まった、ひと皿。
頭をよぎるのは、mariage。
料理とワインの、じゃなくて、彼との。
こんな幸せを毎晩感じられるなら、なんて。
大丈夫、わかってる、それは錯覚。
なんせ二度目の結婚、体験中。

でも恋は、こうして生まれる。
大人になればなるほど、たくさんの言葉から生まれるわけじゃない。

女が興味を抱くのは、知識ではなく、その人がどう思ったのか、感じているのか。

たいていの場合、知識を披露したがる男はふろしきを広げるだけ。
それに対して自分がどう思うのか、がない。
さらにその手の男は、披露したことに満足を覚え、相手がどう思うかなんかにはこれっぽっちも意識が向かないから、会話も弾まない。
「私に興味がない」のがあからさまなのなら、それはそれですごいと思うけれど、無意識なら終わっている。


モテたいなら、どうか言葉は少なめに願いたい。
美味しいおいしい料理で勝負するシェフのように。

柴怒田(しばんた)サナエ
初デートが横丁のもつ焼き屋でも恋に落ちることはできるし、フレンチでのグランヴァンが素晴らしくても次のデートはないと確信できるのは、こっぴどく傷つけ、傷つけられの恋愛経験によるもの。オーセンティックなバーでカクテルを飲みながら、ときめき、を懐かしく思う年頃になった、食まわりのあれこれを執筆するフリーライター・編集者。


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