A2:何をしているのか、明確でないことが怪しすぎた。
美咲とデートをし始めて、三ヶ月くらい経った頃、麻布十番で、二人でご飯を食べていたときに「このレストランから美咲の家、近いよな…」と思った。
そこで食事が終わりそうなタイミングで、僕は思い切って聞いてみた。
「そういえば…このお店って、美咲ちゃんのお家に近い?」
「うん。結構近いよ」
微妙な沈黙が、二人の間に流れる。
すると美咲が何かを察したのか、向こうのほうから言ってきてくれた。
「…よければ、この後うち来る?」
「いいの?」
「うん。ちょっと掃除する時間もらえると嬉しいけど」
「もちろん。外で待ってるよ」
実はずっと、「美咲の生活の実態が、よく見えないな」と思っていた。
毎日どこかへ出社している様子もないし、何の仕事をしているのか未だによくわからない。
何度か聞いてみたけれど、解像度は変わらない。
だから美咲の家へ行って、色々と確かめたかったのだ。
食事を終え、美咲のマンションへ着いた時、僕は正直驚いた。
― え?ここに住んでるの?
美咲の家は、綺麗でしっかりしたエントランスロビーまであるような、麻布十番の中でもグレードの高いマンションだったからだ。
「ごめん蓮くん。ちょっとここで待っててもらってもいい?」
「うん。というか、いいマンション住んでるね」
急な訪問だったから、別に待つのは構わない。それよりも僕が気になったのは、彼女の謎に贅沢な暮らしぶりだった。
そして、次の一言が決定打となった。
「会社?というか、会社に出資してくれている人の名義だから」
― どういうこと?
その“出資者”とは、何者なのだろうか。スタートアップ業界にいる身として、そんな実態のわからない出資は聞いたことがない。
― 港区の新たな投資のスタイル?
美咲のマンションのエントランスロビーにある、ソファに座りながらぐるぐると考える。
そして僕のずっと引っかかっていた違和感が、正しかったことに気がついた。
しばらくすると、美咲が降りてきたので、彼女の部屋へお邪魔することになった。
「お邪魔します」
「狭い部屋ですが…どうぞ」
美咲の部屋は、たしかにそこまで広くはなかった。でも、そんなことはどうでもいい。
― そもそも、誰がこの部屋を借りているのか?他の男の名義ってこと?
そう思うと、美咲が持っている持ち物すべて怪しく見えてくる。
そこまで年収は高くないと思うけれど、ハイブランドのバッグを持っているし、つけているアクセサリー類も妙に輝いている。
彼女の家に行って、謎が回収された。
ちなみに部屋が若干汚いのも気になったけれど、今回限りだと思うと細かいチェックさえする気にもなれなかった。
「お邪魔しました。美咲ちゃん、またね」
「うん。またすぐに」
そう言って、家を出た僕は改めて考える。
― これが令和の港区スタイルなのか…?東京の女って怖いな。
そんなことを思いながら、家路へついた。
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