TOUGH COOKIES Vol.81

「腐った天才が一番質が悪いの」過去の歌声をAIで凍らせようとする女に、生声で抗ったら

SUMI

その瞬間、ともみはYUMEを強く抱きしめていた。

「よかった…!やったね、YUME、すごいよ、本当にすごい!」

今泣くわけにはいかないと必死に涙をこらえながら、ともみは抑えきれない興奮のままにYUMEの肩を揺さぶった。

「…YUME?」

YUMEの表情が暗い。ともみから目を反らすようにして、唇を小さく震わせている。

「どうしたの?」
「…ダメです」
「え?」
「やっぱり、歌えない。……ごめんなさい」
「どういうこと……?」

小刻みに肩を震わせ続けるYUMEの頬を、涙が伝い、落ちていく。

「どうしたのよ?」

苛立ちを含んだ真壁の声が、スピーカーから鳴り響いた。コントロールブースから舞台までは20m近く離れていて、マイクがなければ、ステージ上のやりとりを聞くことはできない。

「すみません、今のままじゃ…私は……歌えません」

YUMEは震えた声のまま――マイクを使って真壁に応えた。そして深く頭を下げ、足早にステージを降りてしまった。



「それでYUMEちゃんは、原因は教えてくれたの?」

ステージの裏手に用意されたスタッフ用のキッチンカーでコーヒーを受け取りながら、大輝がそう尋ねてきた。湖の方へ歩こうと誘いつつ、ともみは小さく首を横に振る。


「今はまだ話す気になれないみたい。今夜ゆっくり……聞いてみようと思ってる」

「本番は、明後日だよね」

「うん。それまでに……歌う気になってくれるといいな」

誰よりもともみ自身が、YUMEの歌をこのステージで聞いてみたかった。その声に熱狂する観衆を見たかった。それこそが8年前に奪われた、YUMEの夢の続きのはずだから。

ぎゅっと、大輝がともみの手を包み込むように握った。人の気配がない湖畔のベンチに、2人で並んで腰を下ろす。

「ごめんね、本当はフェス当日に来る予定だったのに。明日も仕事なんでしょ?」
「そんな顔しないで」

引き寄せられ、その肩に頭を預けた瞬間、ともみは涙が溢れそうになった。復讐計画を本格的に動かし始めてから、自分でも気づかないうちに張り詰めていたのかもしれない。

YUMEがステージを降りてすぐに、大輝から様子を伺う電話が入った。「何かあった?」と心配され、つい不安を吐露してしまった。すると大輝はわざわざ駆けつけてくれたのだ。

「明日戻って、また来るの…面倒くさくない?」
「絶対に当日も来るよ。ともみの勝負の日なんだから」

大丈夫、きっとうまく行くよ、と大輝の大きな手がともみの背中を優しく撫でてくれる。

― つらいのはYUMEなんだから…私がくじけてる場合じゃない。

フェス当日、本番が終わってからの記者会見が、計画のクライマックスになる予定だった。でもYUMEに無理はさせられない。

― 計画を変えるか……何か、考えなきゃ。

ともみは顔を上げ、湖面から吹きつけた強い風を、正面から受け止めた。

FES前日・東京


「本当にお疲れ様でした」

13時過ぎ。赤坂のオープンカフェのテラス席で、キョウコは大輝に向かって、シャンパンのグラスを掲げた。

「昼間からお酒…って、最高の解放感よね」
「でもキョウコさん、そんなにお酒強くないですよね」
「いいの、気分の問題だから」

2人で執筆した連続ドラマの撮影が無事に終了し、作業は編集の段階に入っていた。

「友坂くんのおかげで、本当に上質な作品になったと思う。ありがとう」

キョウコが微笑むと、大輝が「こちらこそです」と控えめに頭を下げた。

快晴の太陽が、シャンパンの泡にキラキラと反射し、白いテーブルクロスに光の影を落とした。儚げな美しさに、キョウコは不意に感極まりそうになる。

大輝は急かさない。けれど今日こそは逃げられない。キョウコは小さく息を整え、口を開いた。

「もう過ぎ去ったこと。時間は戻らない。それでも本当に聞きたい?」
「はい」

揺るぎのない澄んだ瞳に――自分も誠実さを返さなければならない。キョウコは微笑みを消し、決意と共に大輝を見据えた。


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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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