TOUGH COOKIES Vol.73

「今日はたくさん甘えちゃお」再会した母の無邪気な一言に、娘が激怒した理由

SUMI

「夢…?」と弱々しく首を動かした明美が、ルビーを見つめている。けれどルビーは何も答えない。代わりにともみが、「おはようございます、また来ちゃいました」と、夢ではないことを伝える。するとようやく…現実にピントが合ったかのように明美は喜び、手元のボタンを押して、自動ベッドの上半身を起こした。


昨日とは別人のように穏やかなその表情と呼吸にホッとしたとき、ミチにクイっと袖を引かれ、ともみはベッドの真正面に位置する窓際のソファーに促された。さらにミチは、ベッドサイドにルビーのための丸椅子を運んでから、自分はともみの横に座った。

2人で並んで見守るこの状況が、まるでルビーの授業参観にきた保護者のようではないかと、ともみは少しだけムズムズした気持ちになった。

「昨日はびっくりさせちゃってごめんね」

明美の声はかすれてはいたけれど、随分と張りが戻っていた。昨日がルビーとの最期になると覚悟していたのかもしれない。「また会えて本当にうれしい」とルビーに、「お2人もありがとうございます」と、ともみに向けられたその笑顔には驚きと興奮が混じっていた。

「あ、お腹すいてない?朝ごはんは食べた?」

何かカフェで買って来ようか?とせっかちにベッドを降りようとした明美の体を、ルビーが面倒くさそうに押さえた。

「点滴に繋がれてるくせに、やめてよ」
「あらこの点滴って動くのよ、連れていけるの」
「連れていけるって…ペットじゃないんだから」
「やだ、ルビーちゃんって面白い」
「面白いとかじゃなくて、そもそもお腹は空いてないからいりません」

明美さん――あなたの娘はホテルでしっかりと朝食をとったのに、車の中でおにぎり(しかも特大)も食べているので心配ご無用ですよ、と心の中で突っ込みつつ、テンポよく続く母娘のやりとりが意外で、ともみはミチと顔を見合わせた。

「…ほんっとアンタって、いらいらするしムカつく」
「ごめんね」
「そのごめんもムカつくの」
「ごめんなさい。あ、また言っちゃった」

ふふふとご機嫌な明美とは対照的に、ルビーはむくれた表情を変えない。けれど膝の上で組まれたその指先は、せわしなく落ち着きがない。聞きたいことも言いたいことも、言葉を選べずにいるのかもしれないと思うと、がんばれ!と、ともみは声を出して応援したくなる。

一方の明美は、全てがふっきれたかのように無邪気に微笑んでいる。

「今日はルビーちゃんにたくさん甘えちゃお」
「は?」
「ルビーちゃんにお願いがあるの」
「アンタ……何言ってんの?」

これでもかというほどに眉をひそめたルビーに構わず、明美はその両腕を大きく広げた。

この記事へのコメント

コメントする
No Name
良かったね
2026/07/28 06:431

TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

この連載の記事一覧