「夢…?」と弱々しく首を動かした明美が、ルビーを見つめている。けれどルビーは何も答えない。代わりにともみが、「おはようございます、また来ちゃいました」と、夢ではないことを伝える。するとようやく…現実にピントが合ったかのように明美は喜び、手元のボタンを押して、自動ベッドの上半身を起こした。
昨日とは別人のように穏やかなその表情と呼吸にホッとしたとき、ミチにクイっと袖を引かれ、ともみはベッドの真正面に位置する窓際のソファーに促された。さらにミチは、ベッドサイドにルビーのための丸椅子を運んでから、自分はともみの横に座った。
2人で並んで見守るこの状況が、まるでルビーの授業参観にきた保護者のようではないかと、ともみは少しだけムズムズした気持ちになった。
「昨日はびっくりさせちゃってごめんね」
明美の声はかすれてはいたけれど、随分と張りが戻っていた。昨日がルビーとの最期になると覚悟していたのかもしれない。「また会えて本当にうれしい」とルビーに、「お2人もありがとうございます」と、ともみに向けられたその笑顔には驚きと興奮が混じっていた。
「あ、お腹すいてない?朝ごはんは食べた?」
何かカフェで買って来ようか?とせっかちにベッドを降りようとした明美の体を、ルビーが面倒くさそうに押さえた。
「点滴に繋がれてるくせに、やめてよ」
「あらこの点滴って動くのよ、連れていけるの」
「連れていけるって…ペットじゃないんだから」
「やだ、ルビーちゃんって面白い」
「面白いとかじゃなくて、そもそもお腹は空いてないからいりません」
明美さん――あなたの娘はホテルでしっかりと朝食をとったのに、車の中でおにぎり(しかも特大)も食べているので心配ご無用ですよ、と心の中で突っ込みつつ、テンポよく続く母娘のやりとりが意外で、ともみはミチと顔を見合わせた。
「…ほんっとアンタって、いらいらするしムカつく」
「ごめんね」
「そのごめんもムカつくの」
「ごめんなさい。あ、また言っちゃった」
ふふふとご機嫌な明美とは対照的に、ルビーはむくれた表情を変えない。けれど膝の上で組まれたその指先は、せわしなく落ち着きがない。聞きたいことも言いたいことも、言葉を選べずにいるのかもしれないと思うと、がんばれ!と、ともみは声を出して応援したくなる。
一方の明美は、全てがふっきれたかのように無邪気に微笑んでいる。
「今日はルビーちゃんにたくさん甘えちゃお」
「は?」
「ルビーちゃんにお願いがあるの」
「アンタ……何言ってんの?」
これでもかというほどに眉をひそめたルビーに構わず、明美はその両腕を大きく広げた。





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