TOUGH COOKIES Vol.67

7年ぶりに再会した女性に突然「復讐したい」と打ち明けられた理由

SUMI

「わぁ……本物のともみさんだ。本当に――来てくれたんですね」
「…YU、ME?」
「はい。お久しぶりです」

グレーのTシャツにジーンズ。そしてネイビーのキャップ。「毎日服を選ぶのが面倒くさい」と同じものを何着も購入していた頃と変わらず、飾ることを好まぬシンプルな恰好。随分ほっそりとしたけれど、えくぼが可愛い控えめな笑みは確かに、YUMEだ。

「ゆ~め~!今日は来てくれて、ほんっとありがとねぇ~。ていうか、随分大人っぽくなっちゃって、びっくりなんだけど!」と、鼻息荒く、ハグを求めて両手を広げた公子を無視するようにかわして、YUMEは一直線にともみへと向かってきた。

さっきまでの冷静さは吹き飛び、かあっと喉が焼け、どくどくと脈が跳ねる。何を言えばいい?何を言うべき?地上に打ち上げられた魚にでもなったかのような息苦しさで、ともみはただ、YUMEを見つめることしかできなかった。

「…今、何歳に?」

2つの年の差が変わるわけないのに。ようやく出たのは間抜けな問いだった。恥ずかしくなったともみを、YUMEが笑った。

「ともみさん、親戚のおばちゃんみたい」
「え?」
「お正月とか、年一で会ってるのに、毎年必ず聞いて来る人いません?ゆめちゃん、いくつさなったんだばね?そっか、おっきくなったもんだねぇ…って」

本名は夢子です、とはにかんだ初対面の日、青森弁が抜けず標準語に苦労していた音楽雑誌の取材――など、鮮やかに次々と思い出す。ほっそりとしたのは少女が、大人になったからだろう、という自然な変化で、嫌な痩せ方ではないことにともみは少しだけホッとした。

「26歳です。ともみさんには――ずっと会いたいと思ってました」

夢子はともみの横に座った。十分なスペースがあるのに、まるで寄り添うように。するとカシャっと音がして、そちらを向くと、公子が2人にスマホを向けていた。


「今、写真撮ったんですか?」
「だって、あの頃を思い出しちゃって。YUMEはいつもともみを探してたっていうか、何かとともみの隣に座りたがったよね。いや~こういうのが、エモいっていうの?」

ともみは呆れて立ち上がり、公子からスマホを奪うと、今撮られた写真を、フォルダから、そしてごみ箱からも完全に削除する。

「ちょ、ちょっと何するのよ」
「エモいとか、気持ち悪いです」
「は?」
「今のYUMEは顔を隠して活動してるのに。その写真を撮ってどうするつもりですか?」
「……どこにも出さないわよ」

口を尖らせた公子を、全く信用できなかった。ほおっておけば、すぐにSNSに上げてしまうだろう。しかも、最もいやらしい方法――今話題の覆面シンガーが、『元QUINTZのYUME』であることを匂わせる形で。

― この人は何だってやる。しかも金がない今なら、なおさら。

実は、このビルでYUMEと会うことが決まった後、ともみはすぐに公子の現状を調べた。TOUGH COOKIESに現れた公子が別人のように変わっていたからだ。おそらく20キロ以上は太り、肌も荒れ、ネイルは欠けて剥げ。かつてはどんなに忙しくても、外見のメンテナンスを怠ったことがなかったのに。金で解決できなくなったのでは?と予想したのだ。

予想は当たった。光江に紹介してもらった“壁”と呼ばれている情報屋によると(壁に耳り、ということからの命名らしい)、公子が経営している映像プロダクションは数年前に、多額の融資を受けて、大掛かりな海外ロケを行った映画が大コケしたことがきっかけで、経営が傾き始めた。さらにその損を取り戻そうと不動産投資に手を出したがそれも失敗。

そのせいで、映像の会社としての信頼をなくし、今や公子に映画やドラマ、番組の制作を頼むクライアントもいなくなっているという。

「状況はどんどん悪くなってるし、火の車どころか爆発した車ですよ。マジでヤバいからとっとと潰して解散するべきなのに、あの女社長が、しつこく足掻いてるっぽいですね」

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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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