公子は「それ貸して」とともみから自分の携帯を受け取ると、インスタのアプリを立ち上げた。有名人との写真や派手なイベントの様子ばかりが並んだ公子の、ギラギラとしたホーム画面に、ともみはうんざりとため息が出そうになる。
「私からDMを送ったの。あなたはYUMEじゃないか、って。そしたらなぜかDMじゃなくて、こっちに返信が来たんだよね。ほらここ」
表示されたのは、最新のポストだと思われる、ある女優の誕生日会に出席した時の、公子の自撮り写真。日時は2か月ほど前を示している。そのコメント欄に。
「お久しぶりです。また歌い始めました」
と書き込まれていた。
「…まさか」
思わず呟いたともみを、公子がニヤリと笑った。
「まあそんな反応になるよね、最初は。でもこのアカウントに飛ぶと…ほら」
紛れもなく、先ほどからここで流されている動画の――YUMEの声で歌うアーティストのインスタグラムで。
「で、その後はDMでやり取りしたんだけど。そのやりとりが、これ」
ドキンドキン、と速まる鼓動を悟られぬように、ともみは再び携帯を受け取った。
『あなたはYUMEなの?』(18:22)
『はい、そうです。元QUINTZのYUMEです』(19:00)
『やっぱり!!声を聞いて絶対そうだとは思ってたけど、また歌えるようになったの?今どこにいるの?』(19:01)
「ね?本人が、YUMEだと名乗ったの。これで信じる気になった?」
息を荒らげた公子に、ともみは応えなかった。
所在を聞いた質問に、YUMEを名乗る人物は応えず、刻印された時間を見ると、しばらく返信が途絶えたようだった。公子は気が急いだのだろう。
『今、SNSで超バズってるんでしょ?作詞・作曲meってプロフィールに書いてるってことは、アップしてる曲、全部自分で作ったってこと?そんな才能、何で隠してたのよ。ね、久しぶりに会おうよ』(19:30)
『今、真壁ちゃんにも伝えたよ、YUMEから連絡がきたって』(19:32)
『やっぱりYUMEは天才だねって真壁ちゃんと盛り上がったよ。また私たちと一緒に組もうよ。真壁ちゃんもYUMEに会いたいって』(19:33)
あの頃YUMEが憧れていた真壁の名前をちらつかせ、なんとかして再会しようとする公子の一方的な要求だけが続いていたが、返信は2日後だった。しかも。
『ともみさんはお元気なのかご存知ですか?』(13:21)
『ともみ?彼女は随分前に業界をやめたし、今は連絡とってないけど、なぜ?』(13:22)
『ともみさんになら会います』(13:22)
『ともみがどこにいるか分からないのよ。探してみるけど見つけるまで時間がかかるだろうから、まずは私と会わない?』(13:23)
『まずはともみさんです』(13:23)
「ってわけなのよ。だからともみを探し出して会わせるって約束したの。そしたら私たちとも会ってくれるっていうから――ね、だからYUMEに会ってくれない?ともみもかわいい末っ子に会いたいでしょ?」
AN(アン)として活動していたともみの本名を知る人は多くはないけれど、YUMEには、ともみさんと呼ばれていた。ということは本当にYUMEなのだろうか。もし本物だとしてもなぜ――ともみを指名したのか。いろいろなことがとても怖いけれど。
「わかりました。彼女に…会う、と伝えてください」
未だ本物のYUMEだとは確信が持てないまま、ともみが承諾すると、大げさに喜んだ公子は、早速DMを打ちはじめた。画面を覗くその目から、文字を打つ指から、強欲さが滴り落ちていくようで、ともみの背がぞわぞわと震えた。
― でも今度こそ……間違えちゃダメだ。
ともみはもう一度、あの日のYUMEの涙を、叫びを、思い出した。
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