大丈夫なの?と眉を寄せたルビーと入れ替わるように元の位置に戻る。まだどこか血の気の戻らない体でも、座ったまま決着をつけることはできない。
「もう一度、その映像を見せて頂けますか?」
公子に嬉々と差し出された携帯で、動画を再生する。AIで作られたボーイッシュな女性…と先ほどは思えたが、よく見ると中性的で性別が特定できない気がしたし、気になることは。
「アーティスト名は?」
「どこにも書かれてないし、18個の動画がアップされているけど、名乗りもしないのよ。ただこれ。アカウント名も、よく意味がわからないものだし」
アカウント名は、数字とアルファベットが規則性もなく並んでいるように見えて、まるで捨てアカのようだった。
― 確かに、YUMEが歌っているように聞こえる。
低音で掠れた特徴的な地声と裏声を自在に切り替えることができるミックスボイス。そしてその音域はどこまでも上がり、どこまでも下がるのではないかと思わせるほどで、機械のように正確なピッチ…と思えば、まるでベテランのソウルシンガーのようにアレンジを変えることもできる。
まさに歌うために生まれた…と誰もが信じていたあの声が、まさに今携帯から流れてくる。でも。
「確かに、YUMEの声に聞こえます。でもいくら真壁さんや公子さんがプロだとしても、これだけで本人だと判断できないのでは?そもそも、彼女は整形の後遺症のせいで…もう二度と、以前のようには歌えず、歌えば悪化すると言われていましたよね」
歌えなくなったと絶望した、YUMEのぐしゃぐしゃの泣き顔。痛い記憶であればあるほど、時を重ねるほどに鮮やかに蘇る気がするのはなぜだろうか。
「誤診だってあるんだから、医師の診断にも絶対はないってことでしょ?じゃなければ、歌えなくなった部分を、デジタル加工して以前の声に近づけたのか。ま、加工でも補正でも、このレベルに仕上げて、これだけバズらせるものを作れるんだったら、文句ないわよ」
地声でも加工でも“バズれば”いい。昔と変わらぬ公子の品の無さに懐かしささえ覚えて、ともみはどんどん冷めていく。
「どちらにせよ、YUMEなのは間違いないんだから」
「なぜそう言い切れるんですか?もし歌えるようになっていたとしても、声の質感があの頃と変わらないっていうのは、ありえないと思うんですけど」
人の声は加齢とともに変化する。歌えなくなった時は18歳だったYUMEは今はもう26歳のはず。まだ少女の名残があったあの声と全く同じだとは考えにくい。それに携帯のスピーカーから流れているというのに、雑音がないというか、音声に乱れが無さすぎる気もする。
「誰か別人が、YUMEの声に似せててサンプリングしたものだと考えた方が、まだ現実的では?」
「私も最初はその可能性を考えた。だから…」






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