「アイドルとしての可愛げも、リーダーとしての能力もどちらもなかったのだと、今となれば自覚しています。私たちは結局、売れませんでしたしね」
公子の左眉だけが上がった。気に障った時の癖。それは公子が怒りを爆発させる前触れでもあり、それに怯えたYUME――最年少のメンバーは、公子の眉が上がるたびに、隣にいるともみの手をぎゅっと握っていた。
― YUMEの手はいつも冷たかった。
そのひんやりとした感覚を思い出したとき、公子がグラスを置いた音が不快に響いた。
「売れませんでした、って何よ。売れたでしょ」
確かに当初は“そこそこ”売れていた。YUMEの抜群の歌唱力のおかげで。
「私が関わったプロジェクトが売れないはずはない。QUINTZだって順調だった。ただその後、予想外の事故が起こっただけ」
「予想外の、事故…」
「そうよ。YUMEが歌えなくなるなんて、予想外でしかないでしょ。整形で声が出なくなる可能性があるなんて、誰が想像できる?真壁ちゃんは、そのリスクを医者から聞いてたみたいだけど、私は本当に、YUMEが歌えなくなるまで知らなかった。あんなに金をかけたプロジェクトなのに、いい加減にして欲しいわよね」
真壁ちゃんとは、真壁リオのこと。彼女が作る曲は必ず売れるというヒットメーカーで、今や世界中で活躍している音楽プロデューサー。その2人が、QUINTZを作る大人たちの中で、2トップの権力者だった…のだが。
ともみは胸から喉へせりあがってくる熱を何とか抑え込み、聞いた。
「でも、YUMEに美容整形を勧めたのは、公子さんですよね?」
公子の左眉が、また、上がった。
「…整形は別に珍しいことじゃないでしょ。QUINTZにはYUMEの圧倒的な歌唱力が絶対に必要だったけど、あの子はビジュアルが弱かった。なら整形すればいい。少し顔をいじるだけでYUMEの夢も叶うんだし。それになんの問題が?ともみ、アンタ、自分が天然ものだからって整形が悪だとでも言いたいの?」
聞いてもいないことを良く喋る。まくしたてるように饒舌な公子が、哀れにさえ見えた。けれど本当に哀れな被害者は――大人たちに食い物にされた、YUMEだ。
「整形が悪だなんて思ったことはありませんよ」
それは本当に、ともみの本心だった。
「整形しようがしまいが、私レベルの外見のタレントなんて掃いて捨てるほどいる世界じゃないですか。外見なんて変えればいいんですよ。ただし、本人が心から納得した上で、ですが」
「YUMEは、自分で納得して整形したのよ?」
「未成年だったし、親の許諾もない違法な整形でしたけどね」
「…違法、って、やだそんな人聞きの悪いこと言わないでよ」
へらへらと笑い、目を泳がせた公子の軽口を流して、ともみは続けた。
「まだデビュー前の練習室で…YUMEの歌声を最初に聞いた時、圧倒され、強烈に嫉妬しました。でも同時にホッとしたんです。同じグループでデビューできるのだからライバルではない。彼女と闘う必要がないんだって。でもだからこそ、歌えなくなったと泣きじゃくるYUMEの、あの叫びを…私は忘れたことはありません。
公子さん、あなたはあの子の才能を――人生を壊したことを、今どう思っているのですか?」







この記事へのコメント
整形させられたのは辛い過去だけど、また歌えるようになっていたらいいなあ。
それなら力を貸してあげたいね。