A1:行きつけのバーなどは言わない方がいい。
美咲と出会ったのは、食事会だった。
この日、食事会に集まっていた総合商社勤めだという女性陣は、キラッキラだった。
今年で34歳になる僕は、京都から東京に出てきて12年。
それなりに東京の生活には慣れたつもりだし、東京に“染まった”と思う。しかし、こういう場所には、いまだに少し圧倒される。
美咲は、女性陣の輪の中心にいた。
美人だったし、最初は少し気後れしていた僕。でも話してみると気さくで、僕の出身を聞いて「京都のどこですか?」と具体的に聞いてくれた。親近感を覚えた僕は、彼女をデートに誘ってみた。
― 雄大:昨日はありがとうございました。よかったらまた食事でも。
― 美咲:こちらこそ。お話できて嬉しかったです。ぜひ行きましょう。
そうして、僕たちはデートをすることになった。
1回目のデートは、広尾のイタリアンにした。前に友人が行ってよいお店だったと言っていたので、気になっていた店だ。
しかしここで、僕は最初の違和感に気がつく。
美咲は、店に入って席に着くなり、店内をぐるりと見渡し、僕の方を見て満足げに頷いたから。
― ん?なんだろうこれは。
なんの儀式なのか、わからない。でもそれ以降美咲は普通だったし、僕の考えすぎだったと思い直して、デートが始まった。
それに話してみると、相変わらず美咲はサバサバしており、話しやすい。
「美咲さんって東京出身なんですか?」
「そうなんです。正確に言うと、調布の方ですけど」
「へ〜すごい」
「雄大くんは?いつから東京に?」
そして、会話のテンポも良いので助かる。
「僕は社会人になってからです。なので、いまだに東京タワーとか見ると、めっちゃテンション上がります」
「でもそれは、私もですよ」
楽しくて、時間はあっという間に過ぎていく。
そして美咲のようなデート慣れしている女性への、デートのマナーはある程度心得ているつもりだ。だから、さっと支払いを済ませると、美咲はちゃんとお礼を言ってきてくれた。
「雄大くん、ご馳走さまです」
「いえいえ。今日は来てくれて、ありがとうございます」
「この後…どうしますか?もう1軒行きます?」
22時過ぎという微妙な時間だ。でも、美咲はノリノリで答えてくれた。
「いいですね。行きましょう」
ただし、ここで僕は頭を抱えてしまった。この界隈の2軒目事情がわからない。
「どこ行こうかな…すみません、広尾であまり飲まないので、店知らなくて」
「あ!それなら、西麻布でもいいですか?知り合いがバーをやっていて」
この時、僕が少し身構えたのは言うまでも無い。
でも、東京生まれ育ちの女性で、行きつけのバーを持っているのは当然のこと。
「もちろんです。さすが美咲さん」
そう言ったものの、美咲は店を出た瞬間に、さっさとタクシーを捕まえ始めた。
「じゃあ、タクシーに乗っちゃいましょうか。私、タクシー代出すんで」
タクシー代を支払ってくれる気遣いには感謝をしたい。
けれども、的確に裏路地までタクシーの運転手さんに指示を飛ばしている美咲を見ながら、微妙な気持ちにもなる。
― この人、西麻布で毎晩飲んでるのかな…?
好意で知っている店を提案してくれたことはわかっている。
でも金曜の22時から、行きつけのバーへ、タクシーを飛ばして向かう女性を「この先の本命や結婚相手に見れるか?」と言われれば、何とも言えない。
こうして僕たちは、2軒目へ移動したが、話している最中は楽しいし悪くない。
だから僕は、もう一度彼女に会うことにした。しかし、この二度目のデートで「やっぱり違うな」と思うことになる。





この記事へのコメント
何を言ってるの、ライターさんw