港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「まさか、他の女性と?」出張帰りの彼の様子がおかしい。疲れているだけと言うが、不安になった女は…
Customer8:清川紗和子(50歳)老舗ギャラリー・更紗(さらさ)の元オーナー
“西麻布の女帝”の店、TOUGH COOKIESにやってきた“アート界のキングメーカー”こと、清川紗和子は、ルビーに促されるまま、カウンターのスツールに腰を下ろした。
眉の上で真っすぐに切りそろえられたつややかな黒髪の下で、アイラインで強調された切れ長の目、その視線が、まずともみの手元へ、そして店内の隅々へとゆっくりと這うように動いていく。
「光江さんが、2店舗目を出したって聞いて気になっていたんです。あのババアが女子に寄り添う店を作るとか笑っちゃうけど」
敬語に交じった“ババア”という違和感さえも、まるでフランス語かなにかのように洒脱さを感じさせる清川紗和子に名刺を渡されたともみは、その指先から1cmほど伸びたスクエアネイルに描かれた青い花の名を聞いた。
「朝顔。毎月、爪の花を変えるんです。商売道具の一つですね」
その時注目している新人アーティストに季節の花をネイルサイズにデザインしてもらうのだという。7月が近づく今は朝顔。青とは一言で片づけられない、群青、紫にも見える花弁が水滴をまとっているようだとともみが言うと、あら鋭い、と紗和子は片方だけ口角を上げた。
「これは朝露に濡れた朝顔です。毎回、日本の和歌や小説をモチーフにしてデザインしてもらうことに決めているんですけど、この爪のおかげでどんな“はじめまして”の商談でも、いいスタートがきれるんですよ」
まるで小さな浮世絵。確かにこの爪ならば、お世辞や社交辞令ではなく視線を集めて興味の対象となる。それが売りたいアーティストのネイルデザインなら、なお効果的だろうと、ともみは感心した。
コンサバティブとは程遠い、真っ黒な装いはおそらくコムデギャルソンかヨウジヤマモト。数日前、光江から来客情報をもらってすぐに検索したウェブ記事にも、紗和子はこの2つのブランドを好むことが書いてあった。
注文を聞く前に、マッカランのストレート、そして氷を別で頼み、守秘義務の書類に素早くサインした紗和子が呆れたように言った。
「こんなに安易に契約書を交わして大丈夫なんですか?…客の情報が外に漏れたら、店側が客に1,000万の賠償金を支払うとか書かれてますけど」
「もちろんです。お客様に安心して頂くために必要なお約束ですから」
フッと皮肉気な吐息を漏らし、光江さんもとうとうぼけちゃったのかな、と紗和子は、マッカランをまずはストレートでひとなめした。
「では本題に入らせていただきましょうか」
「はい」
「最初に理解して頂きたいのは、私は共感を求めてここに来たわけではありません。ましてや裁かれるのなんてまっぴら。だから今から私が話すことに、人として間違ってるとか、道徳的に説くようなことはしないで頂きたいんです。OK?」
「承知しました」
ともみの微笑みに、では、と、姿勢を正した紗和子は、まるで最初のセリフを発声する舞台俳優のような佇まいだった。
「私はある女性に裏切られて何より大切なものを奪われました。だから復讐を…その女(ひと)を抹殺する計画を立てた。その計画を話させて欲しいんです」






この記事へのコメント
ならばあの態度はないわー。ババァとか笑っちゃうとかボケたんか?まで言って失礼にもほどがある。 性格腐ってるから清川が復讐と抹殺された側なのかもね。