国宝級イケメン、100年に一度の美女。仰々しくも儚く移ろいやすいタイトルを持つ人々と長く仕事を続けてきた崇は、世でいう“特級の美”には慣れたもので、彼らの弱点も知り尽くしている。
その“特級の美”の中でも最高ランクに位置していながら、そのルックスを武器にする仕事を選ぶことなど考えたことすらないという大輝をイヤミな男だとは感じても、崇は引け目を感じたりはしなかった。
キョウコを取り戻すべく、崇は探偵を使い大輝のことを調べ上げていた。ビジュアルだけではなく、そのプロフィールも圧倒的で、日本有数の名家の血筋であり、日本経済を動かす実業家の一人息子だということを知った。
幼稚舎から一貫の私立大学を優秀な成績で卒業しているが、就職活動はせず脚本家の道を選んだ。恵まれ過ぎたお坊ちゃまによくある、自分が何者かを自分の力で証明したいとでも思ったのかもしれないが、この業界で生き残るには、そんな青臭い動機だけでは無理だ。
― でもまあ…それなりに認められるところまできた、その努力は認めるけど。
大輝はデビュー作品から3作目で、地方の映画祭で脚本賞を獲った。さらに最近企画した深夜ドラマは、SNSで切り抜き動画がバズり、異例のヒット。大輝のオリジナル脚本のラブコメで、その視点が気に入ったプロデューサーの宮本が大輝にオファーを…という流れを、大輝も、そしてキョウコも聞かされているはず、だが。
― わざわざ抜擢したんだから、楽しませてもらわないと。
今回、大輝を選んだのは…実は、崇だ。宮本は最初に崇に話しに来た。世界に配信する“ジャパニーズ・ラブストーリー”の監督をお願いしたい、できれば脚本はキョウコ先生で…と。その時に崇は、キョウコとは別に、男性作家を入れるのはどうかと提案し、大輝を推薦したのだ。
キョウコの感性とは真逆に位置するような大輝の作風に可能性を感じる。彼とキョウコと1話ずつ、まるでラブレターの交換のように掛け合いで書いてもらえば、きっと面白くなるはずだ…と、崇は提案した。すると宮本も。
「男性作家が年下というのも良さそうですよね。友坂くんは劇的なモテまくり人生だろうから、恋愛の引き出しも沢山ありそうだもんなぁ。僕も友坂くんの書く作品って、まだまだ粗いと思うところもあるけど、気になってたんですよね。うん、いい化学変化が起きそうだ」
活き活きと、すぐに乗り気になったが、ふと気遣いの顔になり、言った。
「最愛の奥さんが男性作家…しかも友坂くんみたいに超ド級のイケメンとラブレター交換する的なことを提案できちゃうなんて、崇監督、流石ですね。仕事とはいえ、オレだったら無理だなぁ~。だって脚本家って、作品に自分を投入しちゃいがちじゃないですか。
ドラマを10話書いているうちに、もしかしたら…本当に2人の間に間違いが起っちゃうかも、って心配になったりしないんですか?」
崇は、笑った。
「っていうか、それくらいのめり込んでくれないと作品としてはつまらないだろ。あれ、本気で恋に落ちた?って、オレが疑うくらいの物語を紡いでくれないと、監督としては書き直してもらいたいくらいだけどね」
ひぇ~余裕、さすがっす!と尊敬で目を輝かせた宮本に、崇は、自分が大輝を推薦したということは伝えずにキョウコと大輝にオファーを出して欲しいと伝えた。
「ラブレターの交換相手を、オレが決めたっていうの、ちょっと気まずいし、知らない方がキョウコも変に気を遣わずに済むと思うから」
「確かに!」と宮本は納得し、キョウコと大輝の了承も勝ち取ってきた。宮本が人を口説き落とす能力が高いことは知っていたが。
― こんなにも、狙い通りになるとは。
2人のラブストーリーの結末を自分が握る。崇は含んだ笑みに気づかれぬように、妻が恋した男が書いた脚本に意識を戻した。







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