Q1:男が女に惚れた理由は?
直也とは、友人の紹介で出会った。といっても正式な紹介ではなく、たまたまホムパで一緒になり、なんとなく話した…と言ったほうが正しいかもしれない。
飲み足りなかった私たちは、近くのバーに2軒目として二人で行くことになった。
「茜ちゃんって、何をやっている人なの?」
「私はフリーで、フードコーディネーターをやってるよ」
「フードコーディネーター?」
「簡単に言うと、雑誌とかテレビとか…撮影の時に、食べ物を綺麗に見せたりする仕事」
「へぇ、そんな仕事があるんだ」
金融系の仕事をしている直也からして、私の仕事はまったく別ジャンルで、あまり知らない職種だったらしい。
そのせいかとても興味津々に聞いてきてくれて、初対面なのに3時間くらいは二人で話していたと思う。
「私の仕事って、同じシーンが二度とないから本当に楽しいんだよね。それが世に出て、形になる瞬間がたまらなく好きで。その分不安定だけど、そんなジェットコースターみたいな感じが意外に嫌いじゃなくて」
「茜ちゃんって、面白いね。個性的というか、他の子と違うというか。そこが、すっごく魅力的だと思う」
酔っ払っていたのか、そんなことを直也から言われた記憶がある。
その後何度か二人で会うようになり、気がついた時には交際に発展していた。
今から考えると、「付き合おう」という言葉なんてなかった。
それでも直也のことを私は好きだったので、「一緒にいられるだけでも幸せだな」なんて思っていた。
ごく自然と一緒にいるようになっていた私たちはお互いの家の鍵も持ち合い、どんどん二人で過ごす時間が増えていった。
長く一緒にいても、直也と大きなケンカをしたこともないし、大きな衝突もしたこともない。思い返してみても、別れの原因となるような出来事は、本当に何もなかった。
それに、直也からすると、私と交際することによるマイナス要素は何もなかったと思う。
「茜、今日のご飯何?」
「今日は、直也の好きなハンバーグにしようかなと思って」
「マジ?嬉しい!」
基本的に、ご飯と掃除は私の担当だった。
職業的に“料理を作るのが好き”、ということもある。ただ数回ほど、直也が食事の準備をしてくれたことがあったけれど、直也が料理をした後のキッチンは悲惨な状態になっていた。
「直也、ご飯を作ってくれるのは有り難いけど…その前に、キッチンを綺麗にしてくれない?後片付けまでを含めて、料理だからね」
そう伝えると、直也は完全にショボくれている。
「あー…。俺、片付け苦手なんだよね」
「そうなんだ…」
この一件以来、直也は料理をしなくなったし、私も心のどこかで諦めた。
それに、掃除も私がやった方が早いし綺麗になる。加えて、私自身が家事をすることが嫌いではなかったので、まったく苦に思っていなかった。
「直也、食器だけダイニングテーブルに運んでもらっていい?」
「は〜い」
出来立てのハンバーグを出すために、テーブルの用意などはしてくれる直也。
「直也、ありがとう」
「これくらいは、俺にだってできるよ」
食器を並べたくらいで少し威張る直也が、私は可愛くてたまらなかった。
普段、外でバリバリ仕事をしているはずの直也が、家ではかなりぐうたらしている。そのギャップが、私は好きだった。
他の人には見せない、自分だけに見せる顔…。
そんな直也を見るたびに、“自分は特別だ”と思って嬉しくなる。
「いただきます。茜、いつもありがとう」
「いえいえ」
こんな平和な日常が、続いていたはずだった。








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