E08c81bc48bdd333a3f4a27bbfe404
ニューヨーク恋愛物語~商社マン遥斗の場合~ Vol.8

「家、行ってもいい?」デート中に女性からの思わぬ一言。嬉しいはずの彼が戸惑った理由

莉乃の服装はいつもシンプルだが、彼女の素材の良さをよく引き立てている。

無造作にまとめた髪からこぼれた後れ毛が柔らかく揺れ、その何気ない色気に遥斗はドキッとする。

慣れた口調で店員に笑顔で注文を終えると、莉乃は遥斗の顔をマジマジと見つめた。

「で、急にどうしたの?何かあったの?」

「いや、そういうわけじゃなくて。ただ会いたいなと思って」

少し照れながら答える遥斗に、莉乃は「そっか」と優しく微笑む。


「ここ初めてきたけど、夜景が素敵だね」

「莉乃さんは、他にお気に入りのバーやレストランはあるの?」

「そうだな…」

莉乃がいくつかの候補を挙げるが、どれも遥斗と行った場所ではない。

「そういえばこの間、友達と映画を観に行ったんだけどね…」

たわいのない話でさえ、誰と行ったのか、それは男性なのか、と気になってしまう。

夜景の光がグラスの縁を滑り落ち、沈黙がふたりの間に満ちた。

その静けさを破るように、莉乃が言った。

「今日、あなたの家に行ってもいい?」

本来の遥斗なら、嬉しくて尻尾でもふりそうなところだったが、正直複雑な気分だった。

手を繋ぎながら遥斗の部屋に入る。唇を重ね合わせ、触れ合う。だが、遥斗は「待って」と制止した。

「あの、俺さ、やっぱりちゃんとしたいんだ」

「ちゃんと?」

「アメリカにデーティング期間があることも、それが普通だってこともわかってる。俺も初め聞いた時は、お試し期間があるなんて最高じゃん、って思った。でも、やっぱり嫌なんだ。莉乃さんと一緒にいる間中ずっと“莉乃さんにとって俺は何番目なんだろう?”って考えちゃうし、他にどんな男とデートしているのか気になって仕方ないし」

莉乃は黙って遥斗の話に耳を傾けた。

「体の関係も、やっぱりちゃんと付き合ってからがいい。俺は莉乃さんと、真剣に付き合いたいって思ってる」

一瞬、部屋の空気が止まった。外から車のクラクションが微かに聞こえる。

そして次の瞬間、莉乃がフッと息を漏らした。

「遥斗ってチャラそうに見えるのに、やっぱり真面目だね。すごく日本人っぽい」

その言葉が、良い意味なのか悪い意味なのかわからず、遥斗は黙った。

「ちゃんとした告白なんて、いつぶりだろう…」


独り言のように莉乃はつぶやくと、ソファに身体を預けた。


「でもなんか…いいね。ちゃんと大事に想ってくれてるのが伝わる」

莉乃の柔らかい表情が、遥斗の胸の奥をじんわりと温める。

莉乃は遥斗を見つめると、少しだけ間を置いて言った。


「いいよ。じゃあ、付き合っちゃおうか」

笑顔とともにその言葉が落ちた瞬間、遥斗の中で、静かに何かが始まった。

ただ付き合ってみたい、という想いよりももっと深い感情が込み上げる。

窓の外では、ネオンが滲んで夜空を染めていた。


▶前回:「結局、日本人がいい…」ニューヨークに住んでいても、あえて日本のアプリで出会う理由とは

▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?

▶︎NEXT:12月31日 水曜更新予定
やっと付き合えることになった遥斗。薔薇色の生活が始まるかと思ったが…。

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください!

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
この二人の相性最悪だと思う。莉乃も軽々しく「じゃあ付き合っちゃおうか」って.... 裏でギャル婆に報告して鼻で笑ってそうなんだけど。
2025/12/24 06:026Comment Icon1
No Name
莉乃と幸せになれるとは思えないな。美沙と復縁の方が祝福出来る。
2025/12/24 07:082
No Name
絶対うまくいくはずない。莉乃とバラ色の生活が始まるわけないんだよ😂
2025/12/24 07:402
もっと見る ( 4 件 )

ニューヨーク恋愛物語~商社マン遥斗の場合~

ニューヨーク。
眠らない街で、スマホを片手に恋を探す男がいた。

日本でも海外でも主流となったマッチングアプリはもちろん、最近流行っている「リアル」な出会いイベントにも顔を出す。

成瀬遥斗、28歳。総合商社勤務6年目。ニューヨーク駐在中。

その肩書もあって、マッチングアプリを開けば、メッセージは山のように届く。
しかし、出会いは星の数ほどあるが、本当に心を許せる“誰か”には、なかなか出会えない。

成功や出会いが次々と生まれるニューヨークで、遥斗の恋人探しの旅が始まる。

この連載の記事一覧