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ニューヨーク恋愛物語~商社マン遥斗の場合~ Vol.8

「家、行ってもいい?」デート中に女性からの思わぬ一言。嬉しいはずの彼が戸惑った理由

最悪なことに、彼女の仕事の愚痴に対して「気持ちはわかるけど、それはコミュニケーションを怠った美沙にも責任があるんじゃない?」などと偉そうにアドバイスまでしていた。

ろくに話も聞かなかったくせに。

そんなことが思い出されて、遥斗は急に申し訳なく感じた。


「あ、ごめんね、私ばっかり話しちゃったね。昨日まで仕事漬けだったから、遥斗に会ってちょっと気が緩んだのかも」

「いや、それより俺のほうこそごめん。付き合っていた時ずっと、俺は自分の話ばっかりしてたよな。美沙のこういう仕事の話とか好きなものの話とか、もっときちんと聞けばよかった。なんか今さら気がついたよ」

遥斗が真剣な顔をしてそう謝ると、美沙はプッと吹き出したように笑い出した。

「え、どうしちゃったの?ニューヨークの生活がそんなに大変だった?私が生きているうちに、遥斗から謝罪の言葉が聞けるなんて…」

「え、俺ってそんな謝らないキャラだった?」

「謝らないっていうか、自分が悪いことにさえ気が付かない鈍感男というか…」

美沙にそんなふうに思われていたなんて、と遥斗は小さくショックを受ける。すると美沙はまたクスクスと笑った。

「でも、変わったね、遥斗。なんか、丸くなった。遥斗のことだから、“ニューヨーク勤務で頑張ってる俺”感を前面に出した、ウザイ男になっているかと思ったけど、予想よりもまともだった」

「褒めてるように見せて、バカにしてる?」

「ウソウソ、褒めてるよ。なんかいい男になったね」

遥斗は、美沙とこんなふうに本音で話せるとは思っていなかった。

その分、美沙は遥斗のことを完全にふっきれているのが伝わってきたし、遥斗もまた、美沙のことを吹っ切れていたことに気がついた。

「なんか、楽しいな。今日会えて良かったな」

遥斗は心からそう告げた。

きっとあのまま付き合っていたら、いまだに本音は言い合えていなかっただろうし、喧嘩別れしていたかもしれない。

そう思うと、あの時フってくれた美沙に感謝した。

「美沙は、今付き合っている人はいるの?」

「そうだね、たまにゴハンを食べに行ったりする人はいるよ。遥斗は?」

「俺も、気になってる人はいる」

「お互い、うまくいくといいね」

そんな会話をして、美沙とは別れた。

帰り道、遥斗は莉乃に無性に会いたくなった。どうしても声が聞きたい、と思い、電話をかけてみる。

3回のコール音の後、莉乃の透き通った声が耳に優しく響いた。

「遥斗くん?どうかした?」

「無性に会いたくて。声が聞きたくなった」

「え、何?酔ってる?」

驚いたように笑う莉乃だったが「いいよ、じゃあ今から会おっか」と優しく言った。


時刻は22時を回っていた。

遥斗はミッドタウンイーストにあるルーフトップバーの『Ophelia』に先に行き、一杯飲みながら待つ。

我に返ると、気持ちがたかぶってしまって柄にもないことをしてしまったな、と遥斗は急に恥ずかしくなる。

20分ほどして、黒いノースリーブのワンピースを着た莉乃が現れた。

この記事へのコメント

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No Name
この二人の相性最悪だと思う。莉乃も軽々しく「じゃあ付き合っちゃおうか」って.... 裏でギャル婆に報告して鼻で笑ってそうなんだけど。
2025/12/24 06:026Comment Icon1
No Name
莉乃と幸せになれるとは思えないな。美沙と復縁の方が祝福出来る。
2025/12/24 07:082
No Name
絶対うまくいくはずない。莉乃とバラ色の生活が始まるわけないんだよ😂
2025/12/24 07:402
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ニューヨーク恋愛物語~商社マン遥斗の場合~

ニューヨーク。
眠らない街で、スマホを片手に恋を探す男がいた。

日本でも海外でも主流となったマッチングアプリはもちろん、最近流行っている「リアル」な出会いイベントにも顔を出す。

成瀬遥斗、28歳。総合商社勤務6年目。ニューヨーク駐在中。

その肩書もあって、マッチングアプリを開けば、メッセージは山のように届く。
しかし、出会いは星の数ほどあるが、本当に心を許せる“誰か”には、なかなか出会えない。

成功や出会いが次々と生まれるニューヨークで、遥斗の恋人探しの旅が始まる。

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